第780回
なぜ潔く閉店と書かないのか
まったく客が入っていないような寂れた飲食店、
気になりながらもなかなか入る勇気がありません。
行列が出来ていて直ぐに入れない、
予約が困難で何ヶ月も先しか行けない、
常連相手だけで一見客を受け入れてくれない、
など入店が困難な店にどうしても入りたいというのが
人間の心理というもの。
いつでも誰でも通りすがりの客が入れる、
店前に近づくとさっとスタッフが笑顔で出て誘いに来る、
街頭でティッシュ入りのパンフを配っている、
などの店に引けてしまうのは当然です。
客が入らない何らかの原因があるわけでして、
わざわざ大事な時間と予算を
そのような店で消費するのは避けるのは当然でしょう。
不人気が更に不人気を呼ぶわけですが、
資金が有り余って道楽でやっている店以外は、
いずれキャッシュフローが回らなくなって
閉店せざるを得なくなります。
そのようにいつの間にか閉めてしまった店先を見てみると、
最近は変な張り紙をしているのに気がつく方も
多いのではないでしょうか。
今までのご愛顧を感謝しながらも、
種々の理由の為何月何日付けで閉店、
というのが一般的のはずですが、このごろ目にするのは、
「厨房設備(空調設備の場合もある)の修理(改善)の為、
しばらく閉店(休店)させていただきます」
というものです。
まったく流行っていなかった店なのに
設備を改善する余裕資金があるものなのか、
と当初は首を捻ったのですが、
いつになっても改造工事に着手する気配がありません。
数ヶ月先、半年、1年経った頃、
ようやく工事が始まったと思ったら、
全面的な内外装工事で
まったく別の飲食店が出来上がってしまった例を
かなり見てきました。
張り紙を出した時点で
既に潰したというか閉店しているはずですが、
経営者はなぜ、
潔く「閉店」を記して今までのお礼を述べないのでしょうか。
潰れた、閉店したとは認めたくない、言いたくないという
「見栄」としか考えられませんが、
その場凌ぎの言い逃れの方がみっともない
と思わないところが不思議です。
いずれわかるんですから。
この「見栄」は、ご出世された偉いお方にもあるようです。
オーナーでもないのに「オーナー」と称するのは料理人に限らず、
ナベツネさんなど
プロ野球のオーナーと自称している方にも見受けられます。
処世術に長けて、親会社で出世して社長になっただけの
ただの「雇われ・サラリーマン社長」のはずですが、
お互いに「オーナー」と呼び合っている様が
恥ずかしいと思わないのか、私は以前から不思議なのです。
世間では本当に
個人的な所有者(オーナー)だと思ってくれていると考えるほど
甘いお方たちではないと思うのですが。
最近では西麻布3丁目の「1192」。
イタリアンとしては品数少なすぎでしかも料理がおいしくなく、
バーとしても酒類が少なすぎのまったく中途半端な店で、
一回の訪問(客はゼロだった)で先が見えてしまった店でしたが、
やはり最近、「設備の改造」といった張り紙を張って、
見事に閉店しておりました。
飲食店経営者も「見栄っ張り」な人が多いのでしょうね。
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