第579回
「お決まり」について考える
先日、読者の方とのメールのやりとりの際、
鮨屋の「お決まり」でおおいに盛り上がりました。
あるガイド本で高評価されている鮨屋についての二人の感想に
かなりの違いがありました。
私は確かにトップレベルのタネや仕事ではなく
街場の鮨屋に毛が生えた程度と感じたのですが、
彼はシャリが固過ぎて口の中でほどけない、
銀座の回転寿司よりまずいとのこと。
なかなか話がかみ合わなかったのですが、
ようやくその理由がわかりました。
二人の食べた鮨が違ったからなのです。
私はカウンターで主人が握った「お任せ」。
彼はテーブルで桶に入ったものとのことでしたので、
通称「お決まり」。
最近の高額請求の鮨屋は「お好み」も頼みにくく
「お任せ」1本に絞って
客単価を安定させようとする手法が多くとられていますが、
この定食のような
価格設定の安い「お決まり」を出す高額店もまだまだあります。
「すきやばし 次郎」本店はまだあると思いますし、
「ほかけ」、「青木」なども昼などはチラシの他
この「お決まり」を出しています。
「久兵衛」や「かねさか」にもありますね。
共通しているのは価格が「お任せ」とは桁が違うこと
(高くても5千円以内のはず)と鮨自体がまったく違うということ。
「お決まり」はタネのレベルや部位、
そして握り手も違う場合も多いと思います。
私は「お決まり」ならば
シャリが固くてうまくないのも仕方ないと納得しました。
件の店も「お決まり」やチラシは2番手がやっていましたから。
でも、
「『お決まり』は安くてまずくて仕方ないものだ、
と決め付けていいものなのか」
と突っ込まれて、私は考えてしまったのです。
稀に回転寿司へいくことがありますが、
高額支払いになり滅多に行けない鮨を食べるならば、
出前は食べない、店でもテーブルは避けカウンターでというのが
私の鮨屋訪問のスタイルでした。
頭から「お決まり」という存在を消していたのです。
でも、「それはおかしい」との指摘に
弁解しか浮かんでこなかったのです。
たとえ同じ質の食材でも魚には尻尾側と腹側と味の違う、
つまり部位の違いがある。
サクの端なども高額の「お任せ」を頼む客や、
常連客に出せない部位が出てきてしまうのはしょうがないこと。
同じ種類の魚でも良し悪しもあるでしょう。
鮮度の違い、売れ残り、
若い衆に仕事させたタネもあるかもしれません。
そういうタネを有効活用し、
修行のため若い衆や2番手、3番手に握らせることは必要なので、
そのために安く設定しているのではないか、
よって鮨自体に多くを望んではいけない、
と店側にたった考えを示してしまったのです。
非常に難しい問題だと思います。
タネの部位をできるだけ、ばらつきなく供するようにすると
歩留まりの問題で、レベルを保つには食材費が上がってしまいます。
主人だけしか握らないならば、
収容客数はかなり限られてしまいます。
その割に若い衆の人数はある程度必要ですから、
客当たりの固定費率も上昇するでしょう。
「お任せ」一辺倒な最近の「さわ田」、「あら輝」など
若手職人の鮨屋が皆高額店なのはこれが原因だと思います。
「お決まり」も出している
「すきやばし 次郎」や「かねさか」が割高なのは
政策的な面がありますが。
「お決まり」なんて食べない、
有名、高額鮨屋では「お任せ」、「お好み」を頼むのが当然、
というスタンスだった友里でしたが、
これで一般客の立場と豪語していることと矛盾しないか、
ちょっと考えさせられた次第です。
でも、「お決まり」と「お任せ」は
同じ店でも食後感、CPはそれぞれ異なるでしょう。
この店は「お決まりはいいがお任せはCPが悪い」とか
その反対とか。
より複雑というかわかりにくくもなるでしょう。
確かに私は今まで鮨以外でも
高額店を主体に取り上げていた感があり、
それが話題の割に拙著の販売部数が伸びなかった
主原因であると考えますが、
今更このスタイルを替えて、
ラーメンや居酒屋を友里が取り上げても
存在意義がない点をご理解ください。
皆様、鮨屋の「お決まり」について、
ご意見がありましたらお待ちしております。
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