自腹ゆえに本音、愛するがゆえに辛口。
友里征耶さんの美味求真

第390回
ワインの諸々 その27
ロマコンとは羨ましいが、そのマナーはいただけない

つくづく料理評論家というのは良い商売だと思いました。
「おとなの週末」8月号で
山本益博氏は、受け持っているコラム、「食べ歩き手帳」で
銀座の「アルバス」への訪問を取り上げておりました。

「アルバス」自体は356回357回
既に私は取り上げておりますのでどうこう書きませんが、
そこで彼は1929年のロマネ・コンティを開けて飲んだそうです。
1929年のロマコンはこの百年の最高の当たり年で、
今回が3回目と自慢していましたが、
限られた知人ではなく不特定多数の読者に飲んだワインを公開して
自慢するのはあまり粋ではありません。
そして、1929年のロマコンがこの百年の最高の出来というのも
いままで聞いたことがありませんでした。
1928年もそれに匹敵する、
もしくは上回るほど素晴らしい評価ですし、
1945年を最高という評論家もいます。
つまり、飲んだ時期(抜栓までの年数)やボトル差、
そして飲んだ人の感じ方で変わってしまうのは
ワインだけではなく料理も同じのはず。
彼はそんなにワインの知識がありませんから、
このコメントは知人からの受け売りだと思いますが、
今回はそれを突っ込むのではなく、
問題にしたいのはそのワインの価格です。
恐らく世界で最も高いワインの一つであるロマコン。
誰もが一度は飲みたいと憧れるワインですが、
その費用対効果を考えると、
最もCPの悪いワインと言えると私は考えます。
つまり他の高額ワインより5倍、10倍高いけど
その価格差ほど味は傑出していないということです。

私の訪問時、「アルバス」のワインリストで
ロマコンがあったように記憶していますが、
記録では82年のル パンが35万円でしたから、
1929年のロマコンを売るとしたら100万円はくだらないでしょう。
1985年と比較的若いロマコンですが
これも20世紀を代表するロマコンの一つといわれ、
オークション価格でさえ50万円を超えています。
店で飲んだら100万円以上でしょう。
仮に一緒だったスポンサーが持ち込んだとしても
購入値は安く見ても50万円前後することは間違いない。
勿論フランスやベルギーの3つ星店でも
もうこれほど古いワインは見当たらないのではないでしょうか。
彼はワインマニアではありませんので
このロマコンを所有していたとは考えにくい。
仮に所有しているというならばその余裕の収入に驚きますし、
誰かスポンサーに毎回ご馳走になったとしたら、
このような古い有名ワインを何回も飲む機会がある
料理評論家というのは本当に羨ましいかぎりです。

しかし、マナーがいけません。
ちょっと変わった事をやって、雑誌に書いてさすがと思われたい、
といった自己顕示欲が強い方だと
彼を知る読者の方など各方面の方々から聞いていましたが、
なんとその29年のロマコンに
82年のロマネ サンヴィヴァン(同じ特級畑でも格の落ちるワイン)
を注ぎ足して飲んだそうです。
29年のロマコンに精気が蘇った、
ソムリエの仲田氏もビックリしていた、と自慢していますが、
仲田氏は呆れていたのではないでしょうか。

古酒は1本ずつ状態が違い、すなわち強さ、味わいも違ってきます。
リスキーではありますが、それが古酒の良さでもあるのですが、
老け込んだワインだから若い、
しかも畑の違ったワインを継ぎ足すなど、
ワインをちょっと知った人ならば絶対考え付かない、
やらないことなのです。

世のワイン好きの中には、
ロマコンを1杯でも飲む機会のない方が多勢いらっしゃいます。
それだけ希少で高価なワインを
安いテーブルワインのようにブレンドしてしまうとは
品性を疑います。
同席したこのワインのスポンサーがこの行為を黙認したならば、
そのスポンサーもたいしたワイン愛好家ではないということです。
彼の行為は、その多数のワインラヴァーと
大げさに言えばワインの神様への冒涜に近いものと考えます。

それなのにこの暴挙を隠すでなく、
自慢してコラムに書くそのセンスに私は驚きました。
ワインにまったく造詣がない、
臭い言い方ですがワインを愛していないというのが
これではっきりしたようです。
老け込んだワインが嫌ならば、古酒を飲まなければいいわけです。
若めのワインをスポンサーの薀蓄を聞きながら飲んでいれば良い。

29年のロマコンに82年のロマサンを注ぐなど、
鮨屋で「煮切り」と「ツメ」を混ぜて
白身の握りに塗って食べるより暴挙でしょう。
「と村」のお椀が薄味だからといって、
吉兆の出汁を足して飲むより酷い。
最近彼がべた褒めしている銀座の蕎麦屋、「流石」の
「ひやかけ」の汁が薄いと感じた客が、
街場のうどん屋の汁を足して飲んだら
マスヒロ氏はどう思うでしょうか。
彼は同じような事をやっているのですが、
ワインに詳しくない「おとなの週末」の読者に、
誤った知識を与えかねない愚行と記事だったと考えます。


毎日友里征耶のコラムをお読みいただき御礼申し上げます。
勝手申し上げますが、夏休みをいただきたく
2週間このコラムの更新を休ませていただくことになりました。
途中、1本、残暑お見舞いをはさむと思いますが、
また、8/23から再開させていただく勝手をお許しください。


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2004年8月8日(日)

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