第359回
友里征耶のタブーに挑戦 その5
鮨に修行歴はどれほど重要なのか
今東京は鮨ブームではないでしょうか。
住宅街のデリバリーを主体にした
廉価なすし屋が売上に苦戦している中、
東京の一等地である銀座や青山では、
客単価が1万5千円を超える「高級鮨屋」が
どんどんオープンしてきています。
そしてそれらの店の主人の年齢に注目です。
最近の雑誌では、わざわざ30代主人特集をしていたくらい、
若い店主の店が流行っている、
基、流行らせようとしているのが現状です。
都心でなくても、上野毛や中野坂上など立地の悪い店でも
予約が取れにくい状況が続いているようですが、
これらもまた、30代と若い主人の店です。
何店かの有名老舗店で修業したとマスコミで宣伝されていますが、
実はそれはほんの短期間の腰掛で、
本当に世話になった
名も知られていない無名店での修業を隠匿している主人。
開店資金を得る為に、ドライバーとして何年も働いて、
銀座の有名店での修業はやはり短期間だった主人。
中には、鮨屋での修行歴ゼロをうたい文句にしている
豪な主人もいます。
30前後で独立してしまうと言う事は、
実際の修行歴は10数年しかないということです。
入店当初は追廻的な役割、
つまり、清掃や片付け、使い走りしかないはずです。
数年間下積みで苦労してから、
奥の厨房で焼き物や下ごしらえなどの裏方の修業をするはず。
本来ならば、つけ場で握らしてくれるようになるまで
相当な年数が必要なのではないでしょうか。
だいたい彼らが挙げている有名な修業先は、
「久兵衛」を除いて多店舗展開していない
収容人数も少ない店です。
つけ場に立つのは、主人とせいぜい二番手だけでしょう。
つまり、修行に入って10年前後で、
運良くつけ場にたてるチャンスが
そうそう回ってくるとはとても思えないのです。
本人の才能と研究心があれば、下ごしらえ「江戸前仕事」を
親方から習得することは短期間でできるかもしれません。
しかし、30才前後では、
客前で握る期間が充分だったとはどうしても考えられません。
物理的にも、何年も客前に立って握って
腕を磨いていたとは考えられないのです。
かくして、私の経験ですが、最近の若い主人の鮨屋では、
「疑問な握り」に出くわす結果が多くなるのです。
小ぶりなシャリを、覆い隠すようにネタで巻き囲み、
ネタ毎、箸や手で摘ませる、
つまり直接箸や指がシャリに触れないようにして、
シャリの崩れ、つまり握りの技術のなさを隠す手法が
結構とられているのではないでしょうか。
必要以上にマスコミも、握りは箸ではなく手で食べろ、
と啓蒙しています。
シャリは空気を含んで柔らかい方が良い、といった情報も
提供しているようですが、口の中に入れてはじめてほどける様な
「柔らかい握り」と、シャリを摘んだら崩れてしまう
「緩い握り」とは、
まったく技術的に違うものだと私は考えます。
最近流行の若い主人の握りに不満はありませんか。
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