「お金」と「時間」のバランスを保つ
私の周囲にもそういった人が何人かいる。
中国人はそういう身分の人を「幸運な星の下に生まれた人」といって羨ましがる。働くのは生活の糧を得るためであるから、働かないですめばそれにこしたことはないと考えているのである。しかし、お金は本来、人を忙しくする性質を持っているのに、そのお金に取り巻かれながら、なお泰然自若としておられるとすれば、よほどの大人か、それとも経済オンチのどちらかということになる。
世の中にさして大きな変化のなかった時代には「守り」の姿勢さえ貫けば、父祖伝来の財産を維持していくことができたが、昨今のようにめまぐるしい移り変わりの時代にはポヤポヤしているうちに全財産を失ってしまう。
だから親の遺産を受けついで「不動産賃付業」とか「金融業」をやっている人たちは、外見上は悠々としているようでも、内実はあせった生活をしている人が多い。ことにインフレでジッとしているうちに貨幣価値の目減りしていく状態の下では、よほど理財の才能がなければ、たちまち財産をすり減らしてしまう。従って仕事に打ち込んで時間のたつのを忘れるような人は別だが、他人から「結構なご身分ですね」と羨ましがられるような人は、交際範囲も狭くなるし、お金を惜しんでケチケチ暮らすようになるから、だんだん器が小さくなって、人物も小粒になってしまう。そういった意味では、「お金もあってヒマもある人」よりは、「お金があってヒマのない人」の方がずっと張り合いのある生活をしていることになるのである。
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