「知らないこと」を知る喜び
読書に「気晴らし」を見出す人の本の選び方についても、ほぼ同じことがいえる。本を買う時は、どうしても馴染みの著者の書いたものを買いたくなる。また自分が興味を持っている分野の本棚にしぜんに目がいく。
しかし、人は自分の知っていることよりも、なるべく知らないことに目を向けたほうがよい。知識の吸収にしても、知らないこと、はじめて知ったことからヒントを得ることが多いのだから、ちょっとでも心にひっかかる本に出会ったら、一応はその本から読んでみることである。
そんなことをいうと、せっかく私の読者になってくれた人を追っ払うようなことにもなるが、私の読者だって私の本から時々、目を離して他の著者のものを読んでくれたほうがよい。
そこに自ら比較の目が養われるチャンスがあるし、物を見るのにいろんな角度があることに気づくことにもなるからである。
私はいつもこの原則を守ってきたので、まずベストセラーズは読まない。ベストセラーズを読むくらいならロングセラーズを読む。またなるべく自分の知らない分野について書かれた本を読む。知らない著者の本も買う。買ってきて十頁も読まないうちに、「千円、損をした」といって投げることも多いが、それは私が書店にたち寄って、ゆっくり選択している時間がなくなってしまったからである。ヒマがあってお金のない間は私だって本の中身をパラパラめくり、あとがきもしっかり読んで納得してから、やっとカウンターにお金を払いに行ったのだから、安サラリーの時はそうするのが当たり前であろう。
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