マイホーム・都心か郊外か
サラリーマンたちは財布の中身と相談した上で、マイホームづくりをする。
勤務先になるべく近いところに家を構えれば便利なことを知らない人はいない。しかし、勤務先は、工場のような生産施設などを別とすれば、大抵は都市の中心部にある。そういうところは、土地の値段が坪当たり何百万円もするし、東京でいえば、山手線とか中央線の駅から徒歩十分以内となると、土地はもとよりのこと、マンションの値段でも、目の玉がとび出るほど高くなる。たとえば、東横線や井の頭線のような高級住宅街の地域では、十坪のマンションを買っても、二千万円のお金をとられる。同じ二千万円で東上線とか、京浜線の遥か先まで行けば、五十坪の地所がついた一戸建ての家が手に入る。
両者のうちどちらか一つを選ばされる立場に立った時、まだ幼児をかかえた若い夫婦はこう考える。
(1)マンションはなるほど通勤には便利かもしれないが、狭すぎるし、土地も二坪か、三坪しかついていないから、大して値上がりしないだろう。
(2)それに比べると、郊外の一戸建ては土地が五十坪もついているし、建物だって二十坪はある。坪二十万円が四十万円に値上がりすれば、家はタダになってしまう。
(3)郊外から都心部のオフィスまで片道で一時間半はかかってしまうけれども、庭があるし、空気もよいし、子供のためにもよいだろう。
(4)確かに通勤に時間がかかるのはこたえるけれども、なあーに、自分が今までより一時間早く起きればよいのだし、まだ年も若いのだから、ガンバろうじゃないか。
こうして東京でも大阪でも名古屋でも、庶民の住居は横へ横へと広がって、平べったい都会がつくられていく。エレベーターで上から下へ降りるようにすれば、おそらく同じ面積の中に十倍も二十倍もの人口が収容され、スペースと時間がかなり節約されるだろうに、動くだけにエネルギーと時間を消耗してしまう。特に、雨の降る日とか、仕事に疲れはてて家路を辿る時は、つくづく因果なところに家を建てたものだとわが身を恨めしく思うようになる。
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