ところが、アメリカでは、ちょっと業績が悪くなると、「明日から来なくてよろしい」とばかりにレイオフが行われる。社員のほうもいつレイオフの対象にされるかわからないのだから、会社に対する忠誠心は日本人に比べて薄く、ほかに少しでもよい条件で雇ってくれる会社があると、今度は自分のほうから出ていく。昨日までフォードの社長をしていた人が一夜あけたら、商売ガタキのクライスラーの社長に鞍替えするくらいだから、下のほうの流動性はもっと激しい。だから山崎鉄工が現地で技術者の募集をすると、あっという間に腕のよいのが集まってきてたちまち工場が動くようになった。海外進出は、型通り、まず販売提携からはじまり、続いて自社の販売網に切り替え、やがて現地生産へと脱皮していったのである。
生産する機械の内容も、汎用旋盤からNC旋盤、マシニング・センターと広がりを見せ、とうとう無人工場にまで発展した。無人工場が名古屋市郊外の江南にある本社でできあがった段階で、私も案内されて見学に行った。昔なら三百人が忙しく立ち働いているスケールの工場の中に今は二列の生産ラインがあって、一ラインに二人ずつ、次に刃物がこわれた時に取り替えをするところに一人、コンピュータ室に一人と合計六人配置されている。六人で、三百人分の作業をやっているのである。しかも、夕方五時に作業を終わって帰ったあとも、工場は動き続けるから、材料がきちんと配備されているかどうかを確かめた上で、電灯を消して帰る。工場を動かすだけなら、動力はいるが、電灯はいらないのである。それくらい労働力を排除した形で、工場生産が行われるようになったから、ロボットが普及するにつれて、工場生産の概念が一変してしまうのも無理はない。
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