第70回
昇給額、ボーナス額を見せ合うのが当然
銀行の営業の責任者として香港に赴任して、最初に直面したのが、
部下のスタッフの給与の査定です。
日本では、部下に対する人事評価はしますが、
給料をいくらにするかは、人事部の権限です。
香港では、部門の責任者である私がまず、
支店の昇給方針(例えば最高18%最低5%)の中で、
スタッフ個人の査定を行い、
支店全体のマネージャー会議で調整します。
昇給の通知をするや否や、
次々に部下のスタッフから文句が出てきます。
「これだけ利益に貢献したのに、何で18%しか上がらないのか?」
「あいつは何もしてないのに、何で5%も上がるのか?」
「会社が決めたんだから、仕方がないだろ?
それにしても、何で他の人の昇給額まで知ってるんだ?」
どうも、その日のうちに、同僚間で昇給額を見せ合って、
すぐに全員がどうだったか、噂で広がってしまうようです。
見せ合うのはともかく、一番問題なのは、
思い切って昇給させたスタッフほど、
数ヶ月以内に転職をしてしまう傾向が強いことでした。
なぜそんなことになるのか2年目までは様子を見ていましたが、
原因がわかったので、支店長に直訴しました。
「支店長、当社の昇給方針は間違っています。
優秀なスタッフには昇給額が少なすぎる。
だめ社員には昇給額が高すぎる。
ですから、優秀なやつばかり転職して、
だめ社員だけ残る羽目になるんです。」
「優秀な社員には、転職先と同じ程度の給与。
だめ社員には、やめたくなるような給与にしなくてはならない。」
と気がついたからです。
それからは、
優秀な場合であれば、給与を3倍にしたこともあります。
だめ社員は一切昇給なし。
香港では減給は原則できないのです。
それでも、優秀な社員は長くても3−4年勤務が最長。
だめ社員の半分は辞めませんでした。
それを悩んで
香港人の友人のヘッドハンターに相談したこともありました。
(39号参照)
「優秀な人材が半年以内で辞めたら、失敗したと反省しろ。
1年勤めてくれたら平均だ。
2年勤めてくれたら、ありがたく思え。
3年勤めたら神に感謝しろ!"とね。」
ローカルスタッフは、
偉くなっても次長・副支店長以上には出世できませんから、
よほどいい給与を出さないと
引き止めるのは難しいことも事実なのです。
香港では、同級生・友人が集まったら、先ず、
「給料・ボーナスいくらもらってる?」
が最初の挨拶代わりになっています。
自分がいくらなのか?
相場の給料がいくらなのか?
常に情報を集めているのです。
その上で、給料が一番良い会社、
新しい・チャレンジングな仕事を与えてくれて
キャリアアップできる会社、
高い地位を獲得できそうな会社に転職していくのです。
これは、台湾でも中国大陸でも大体同じ傾向のようです。
というより、これが国際スタンダードなのかもしれません。
海外に出ても
日本の人事制度・給与制度の延長線上でしか処遇できない日本企業。
私が外人だったら、やっぱり勤めたくないですね。
そんな制度では。
|