「骨董ハンター南方見聞録」の島津法樹さんの
道楽と趣味をかねた骨董蒐集の手のうち

第195回
骨董を見る目―北朝鮮に運ばれた偽物高麗青磁は日本へ

本歌李朝白磁鉢


その話から2年ほどして、
僕の店にも北朝鮮発掘と思われる古陶磁が
たくさん入ってくるようになった。
博物館級の名品を見たのも一度や二度のことではない。
そのうちポツポツと非常によく出来た偽物が混じりだした。

高麗青磁の作品でこんなことがあった。
それはいつも中朝国境から比較的値打ち物を運んでくる
朴さんとのことだ。
彼が持ち込んだのは高さ25センチ、胴径が20センチもある
堂々とした梅瓶だった。
昔、貴族たちが酒器として用いたものだ。
文様は柳の下に可愛い水禽が数羽遊んでいる
格調の高いものだった。
白黒象嵌がくっきりとしており、
取り出し包み紙を開けた時、
「幾ら?」と思わず声が出そうになった。

傷は上部口辺に二箇所小さな欠けがあるのみだ。
価格は魅力的な150万というのだ。
あまりの安さにびっくりしてしまった。
高台の脇三分の一ほどに半月状のカセも出ている。
このようの部分にカセがみられるのは、まず問題のない作品だ。
高台内が砂高台となっているので、
12世紀末から13世紀頃の作品と思われる。

それにしてもあまりにも美しい青磁釉の色調と、
13世紀の時代があわない気もする。
この辺りがディーラーの感のようなものだ。
そんなときはまず品物をけなして相手の出方を見るのも必要。
「これ、ダメだね」
というと朴さんはむっとした。
「絶対古い!だいじょぶ、傷もない」
と言切った。
頑固な珍島犬(チンドケン)に似ている。
韓国人は非難されると
絶対に自分の意見を引っ込めないところがある。
根は好い人たちが、
取引していて気まずい気分になることもしょっちゅうある。

「青磁釉にくもりが全くありませんね」
と言うと、案の定頭からバッと湯気を立てて朴さんが言った。
「よい青磁はみなこうですよ!」

                     《続く・・・》


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