第194回
骨董を見る目―北朝鮮は宝の山
|
本歌高麗青磁白黒象嵌鉢
|
十数年前から、
北朝鮮で発掘されたという高麗青磁や李朝初期の陶磁が、
日本へ沢山持ち込まれている。
骨董ビジネスも国際的になっていて、
一つの国の出来事が
小さなビジネスをやっている僕の店にも直ちに影響する。
十七年前にソウルの金さんというディーラーと話をしていた。
彼は僕の長年の取引先だ。
その彼の口からこんな話が出た。
「あんた、北朝鮮へ入れませんかね?
日本人だったらビザを取ればOKなんでしょ?」
と僕に北へ行けと言う。
「でもあそこ、こわいからね」
僕も大概色々なところを覗いたが、
望んで檻の中へ入ってゆく勇気はない。
しかし金さんは面白い話を始めた。
「昨今、北は食糧不足で金になることだったら何でもありです。
電柱に掛かっている電線を切断して、
中国に持ち出し米と交換するくらいですから」
と付け加えた。
食糧不足の実態はかなり深刻なようだ。
「私が聞いた話では、
高麗の首都『ケソン』近くの古墳がかなり掘り返されて、
高麗青磁や李朝初期、白磁の作品がたくさん出ているようです」
と、彼が言った。
「誰か見てきたの?」と、尋ねると、
「中朝国境の朝鮮族が、海産物を買うのに列車に乗り込むと
古陶磁を売り込まれることが度々あるんだって」
と、羨ましそうに言った。
宝の山の匂いをかいだ金さんは、
いても立ってもいられない気分なのだ。
しかしもし韓国人が向こうへ潜り込んだら、
即スパイ罪か何かでひどい目に合うから
僕に見てこいということらしい。
《続く・・・》
|