第193回
骨董を見る目―壺一点 3,137,600,000円
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クリスティーのレコード、31億の元染の壺
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2005年7月12日クリスティーズのオークションで、
元染付の壺が陶磁としては史上最高で落札された。
15,688,000ポンド、日本円では3,137,600,000円である。
漏れ聞いたところによると、
この壺の出品者は日本人であるらしい。
1〜2億ぐらいでと思っていたのだが、
物凄い価格になったため出品者も驚いていると言うことだった。
元染付についてはこのコラムでも何度かとり上げている。
東南アジアには比較的多く伝わっているもので、
僕もこれまで幾つかの元染付作品を取り扱った。
これほど一本調子に値段が上がっていった作品は他に例がない。
ある時チェンマイで元染付の壺を発見した。
タイの寺院などの基壇に埋められる舎利容器の外容器として、
元染付や安南の壺が用いられているのだ。
あるものは内外面に金箔が貼られたり、
口辺部に銅や銀の覆輪が施されたりしている。
僕が出会った元染付の壺も内外面に金箔が施されていた。
その金箔面には、
サンドペーパーか何かで擦り取られたように
全面に細かい傷が付いていた。
金箔のないところからは
元染付特有のやや青みがかった肌が見える。
染付部分はこれも力強い筆の運びで牡丹唐草文が描かれている。
値段を聞くと二百万ぐらいで、当時としても非常に安かった。
それで思わず飛びついてしまったのだが、
どうも金箔の小傷が気になって仕方がない。
よく見るとまるで機械で擦ったように、
ある方向に向かって規則正しく擦れが見える。
そこでさらにルーペでチェックした。
するとそれまでオリジナルだと思っていた壺に
いろいろな疑問点が見えてきた。
まず貫入(釉薬部分のひび割れ)が長い。
通常元染付作品には貫入が少ないが、
この壺の口辺部から高台脇にまで長い貫入がたくさん走っている。
こんな作品は見たことがない。
それに文様の花弁の発色が単純すぎると、
どんどん問題点が湧き上がってきた。
結局その作品は買わなかったのだが
良いと思ったことがわずかな視点の違いで、
このように否定的に見える場合はよくある。
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