| 第159回骨董と人―元締めは冷たい目
 
           
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            | 漢 灰陶加彩馬俑 |  途端に店主の目が僕を無視して2人連れのほうへ行ってしまった。
 テーブルの上に置いて、
 交渉している北斎の牛を老紳士に渡そうとさえした。
 僕としては非常に気分が悪い。
 「ムッ!」として店主をにらみつけると、
 「私は良いからこの方にどうぞ」
 と老紳士が言ったみたいだった。
 中国語はさっぱりだが感じで分かる。
 が、言葉とは裏腹に目が牛に釘付けになっている。
 秘書を見ると大体オーナーのステータスが分かる。大物の秘書はこざっぱりして、賢そうで服装のセンスも良い。
 しかしその反対に、
 美人だがどこかだらしなさが漂う秘書連れのオーナーは
 柄の悪いのが多い。
 この分類でゆけはこの紳士はかなりな大物だ。
 中国語が分からないと思ったのか、
 秘書が英語で僕に話しかけてきた。
 「交渉してください。私たちはしばらく待っていますから」と言いながら狭い店なのにテーブルの横に椅子を持ってこさせ、
 2人は座り込んでしまった。
 それに「その牛は私のモノ」と言う気持ちがびんびん伝わってくる。
 店主は僕との交渉を無視して、
 香港大学の鑑定書を見せたりチェックの穴を指でこすったりして
 彼らに説明している。
 少々大人気なかったが
 「オイ、牛、テーブルに戻せ」と大声を出した。
 しかし蛙の面にションベン。
 中国商人の怖いところは、
 こちらが大声を出そうが机を叩こうが、
 全く聞こえないかのように人を無視する。
 どちらが、より自分の利益になるのかと言う面でしか
 客を見ていない。
 商売人としてはそれでよいのだろうが、僕は潤いも大事だと思う。
 「あんたの値段では話にならんから、又後にしてくれ」と、ついに言われてしまった。
 「邪魔したな!」と言ってぼくもすっくと席を立った。
 「時々掘り出しの出来る面白い店だが2度と来るか!」
 と思いつつドアを押して外に出た。
 しかし、骨董の仕入先というのは
 沢山あるようでいて意外と少ない。
 2、3ヶ月もすると又この店に舞い戻っている自分を
 ウインドウガラスに見た。
 老紳士と秘書は、
 何事もなかったような顔付で店主と話し合っている。
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