| 第160回骨董と人―カジノ、金が入るシステム作り
 
           
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            | 漢 灰陶加彩馬俑 |  2,3Fにも先程の店と同じような運び屋を兼ねた骨董屋がある。
 狭いエスカレーターを駆け上がった。
 そして2階の女店主の店に入った。
 ここで素晴らしい唐の加彩馬を見つけた。
 大きさも手ごろで傷も少ない。
 駻の強い顔とパッチリとした目、尾には花が巻きつけられている。
 何より早く走りそうなサラブレッドだった。
 値段を聞くと4000USドルだと言う。彼女はどんなに値切っても、
 いつも5〜10%くらいしか値引きをしてくれない。
 この買い物も3500ドルで手を打った。
 そこへ先程の秘書連れの老紳士が入ってきた。
 「又会いましたね」と今度は彼が英語で話しかけてきた。
 しかし全く僕の顔を見ず、テーブルの上の馬を見ている。
 これはもう買うと約束しているので先程と違い、安心だ。
 彼が中国語で女店主に何事か聞いている。「売れたのか?幾らだ」と言っているようだ。
 「この馬売ってくれませんかと、聞いてますが?」と女店主。
 「ダメですよ。下でひどい目にあったんだから」
 「6000USドルで是非譲ってくれと言ってますよ」
 グラッと来たが断った。
 すると老紳士が僕のほうに顔を向けた。
 「馬が好きでコレクションしているのですよ」と言い出した。
 「この方マカオの○○さんと言って競馬場のオーナーの一人です」
 と女店主が僕に紹介してくれた。
 そして「カジノも二つ持っているのですよ」とさらに付け加えた。
 競馬場やカジノビジネスは景気の好不況にあまり影響されないらしい。
 景気がよいとギャンブラーにも金が回ってきて一瞬の夢にかける。
 不景気になると一発なけなしの金を張る。
 カジノのオーナーには
 どちらに転んでも売上の数パーセントが入る。
 それに他のビジネスと違って、
 一度設備投資をしてしまうと後はよほどのことがない限り、
 金が毎日流れ込んでくる仕組みだと彼女がいった。
 金持ちになろうと思えばこんな仕組みを作ればいいのだ。認可や資本で苦労はするが、
 思えばNTTもボーダフォンも免許を取って線を引いて、
 じっとしていれば通話料が入ってくるので
 同じようなものかもしれない。
 僕は自分の生き方に誇りを持っているほうだが、しかし情けないことに競馬場とカジノのオーナーと聞いて、
 口が意思に拘わりなく声を発してしまった。
 「いいですよ」彼は僕の方を見ず、
 女店主に二言三言指示し行ってしまった。
 冷たい横顔をにこりともさせずに。
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