| 第142回<とぴっく10>
 アジアのリッチマン
 <フィリピンの新興財閥−いつも権力者の傍に居られる人>
 
           
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            | 美しいマリア像 |  「今どきこんなものがあるのですか?」
 「ミンダナオから来たんだ」
 とヤッコさんがいった。
 僕も情報は掴んでいる。
 ミンダナオ近くの島から中国陶磁が出土しており、
 それをヤッコさんが買ったようだ。
 「高いでしょうね?」と訊くと、
 「まあね」と頷いた。
 壺の高台や内側を覗いていると「ノリキさん、なんなら売ってもいいよ」
 と後ろから声がかかった。
 「幾ら?」
 「値段はそちらで付けて」
 「2点で15万ドルくらいですか」
 と市場価格の十分の一くらいの値段を言うと、
 「それジョークかな?」
 と渋い顔で言った。
 ヤッコさんはミンダナオの堀屋から
 もっと安い値段で仕入れているにちがいない。
 「皿が30万ドル、壺が120万ドル、君には無理かな?」と言った。
 いい値段だが抱え込んでしまうと店の経営がアウトだ。
 ある美術館の学芸の人に
 「元染のいいのがあれば教えてね」
 と聞いてはいたが、話だけで保証がない。
 こんな時の見込み仕入が一番難しい。
 結局この話は流れてしまった。
 ヤッコさんは日本でいえば一部上場企業を幾つか持っているオーナー社長だが、
 僕みたいな若造に対しても骨董の売り買いをやる。
 誰とでも付き合える幅の広さは彼の強力な武器だ。
 「イメルダ夫人も骨董好きで良く官邸に呼ばれるよ」
 とも言っていた。
 その彼が、
 「骨董は絶対に損をしないビジネスだね。
 楽しんで高く売ればわくわくするよ」
 と僕が言わねばならんことを言った。
 美に取り囲まれたヤッコさんの目は鋭い。そんな目でビジネスもしっかりと把握しているのだろう。
 マルコスが失脚した後も、
 彼は次の政権ときっちり結びついて
 今もマカティの朝食会に出ているらしい。
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