第128回
<とぴっく10>
へとへとの交渉
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清染付花生
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「アンタ、どこからきたんや?駆け出しやな」
と身を反らせながらさらに厳しい挑発を仕掛けてきた。
そこへデパートの担当者が転がるようにやってきた。
「社長、社長、社長!毎度お世話になってます」
と、腰をかがめて言った。
客はそんな彼には目もくれない。
「変わった値段出しよったで」
と、巻き舌で担当者を叱り付ける様に言った。
「新しい取引先なんで社長の事知りませんから、
申し訳ありません」
とペコペコして僕のほうをグッとにらみつけた。
「ちょぼっとしか引きよらへんのよ」
とさらに担当者をプッシュした。
彼は僕のほうを向いてもう一度怖い顔をした。
「社長にはもっと頑張って値をつけてくれなアカンやないか」
と尻馬に乗って言う。
慣れない背広着てデパートの催事場に立っていると
僕も調子が狂ってくる。
しかし何もかもグッと飲み込んだ。
「分かりました。社長、値段つけてください。
全部うちのものですからあわせます。」
と放り投げた。
担当者は、なにすんねんという目で僕を見た。
「ちゃんとそろばんはあわせます」と小声で断った。
「兄ちゃん、ええコンジョしてとるね。ほんまにええんか?」
「いいですよ」と言うと、彼は指を一本立てた。
どこまでも理解しにくい人だ。
催しの出品金額の合計は売値で2500万円ほどだ。
デパートへの仕切りでざっと1700万円くらいだろう。
僕が泣いてデパートに無理を言ってしのごうと考えたが
どうも面白くない。
「社長、1本って1万円ですか」と、とぼける作戦を取った。
「ワッハ、ハ、若いのにおもろいやっちゃ。皆こうちゃる」
と言って手を広げ、
担当者に後からもってこいと言いながら帰ってしまった。
「あの人、本当に買ってくれるんですか?」と訊いた。
「さぁ~」と彼も不安そうに顔を曇らせた。
「あの社長ね、ビル75棟、ゴルフ場3つ、結婚式場と
スーパーマーケットのチェーン店を経営しているんだがね」
と付け加えた。
「じゃあ、とりあえず完売ということにしましょう。
いつ届ければいいか訊いてください」と言うと
「その辺の交渉はあんたがやってくれ」と言われた。
トラブルを避け、
難しいことは出入り業者にやらせるケースは結構多い。
翌日電話すると「明日来い」と社長に言われた。
・・・この項続く
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18世紀英国三彩透かし文皿
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