「骨董ハンター南方見聞録」の島津法樹さんの
道楽と趣味をかねた骨董蒐集の手のうち

第129回
<とぴっく10>
エロっぽいルノアールと核心を突いた帝王学

李朝瑠璃雲鶴文長頚瓶

山の上の物凄い大きな家に行くと、
一昨日の社長が好々爺という格好で現れた。
「おお、良く来たな。まあ、中に入れ」
と言って立派な数奇屋作りの家に案内してくれた。
「社長、早速ですが先日の品、
 いつお運びすればよいでしょうか?」
と早々に切り出した。
すると、「あんなもんいらんよ」と、ケロッと言うのだ。
むちゃくちゃ腹が立ったが気を取り直した。
「そうですか。じゃあ失礼します」
と、間髪を入れず僕は立ち上がった。

「気の短い奴やな。こうたる。100万円分ええのもってこい」
と言ってくれた。
僕もこれでホッとした。
以後この面白い社長との付き合いが始まった。

彼は巨大な観音像を建造したり、
温泉地にびっくりするような美術館を建てたりした。
一度来いと言うから見に行くと、
美術館の中は様々な格好をした裸婦のオンパレードだった。
「社長、こんなの掛けていて大丈夫ですか?つかまりませんか?」
「あほ、芸術やで。温泉客相手の美術館にはこれが一番ええ」
自分のアイデアに自信を持っている。
「作家、有名なんですか?」
中にルノアールの有名な作品があったが
オリジナルとは少し違ってエロっぽい。
「フランスの画家で何たら言うたな〜」と、しれっとしていた。

「君なー。この中に俺の描いたのがある。
 売ってる作品ちょっと借りてくるねん。
 それを1週間ほどで写してしまうんよ。
 この中にあるから当ててみ。」
と照れ笑いもせずに言うのだった。
僕はがっくりと首が折れた。

ある時、「君なあ、金儲けの仕方教えたろか」とも言われた。
「旅行に出ると誰でも金を使いたいんや。
 うまいものを食う、面白いものを見る。買い物もしたい。
 要は気持ち良い事に金を使いたいんや。
 『さあ、早よ金取って!』と財布を開けている状態なんやで」
ちょっと問題がある言い方だが、
社長が細かく人の心理を掴んでいるのに驚いた。

こんなことも言っていた。
「君な〜。跡取りに勉強させているんや。
 これだけはやれ、と言い聞かせていることがあるんや。
 なんやと思う?」
「経営学でも勉強させているんですか?
 社長くらいの会社の規模になると、
 近代的なマネッジメントでやらないかんでしょうからね」
とお追従を言うと、
腐ったジャガイモを見つめるような顔で僕を見た。

「あほ!お前もたいしたことないな。何もするなと言うとるねん。
 ジーッとしてたら家賃が入るがな。
 儲けようと思って会社を大きくしたら、いつかどっかで倒産や。
 息子には働くな、何もするなと教えとるんやで。
 そやけどこれは難しいこっちゃ」
僕は、本当に感心した。核心を突いている。
バブルの真っ最中でどこもここも沸騰している時だった。

しかし、この社長の会社もその後不幸なことになってしまった。
話の割には僕にとってあまり大きな商売も出来なかったが、
印象的な人だった。
どうか復活して又あの景気のいい話を聞きたいと願っている。


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