第123回
<とぴっく10>
香港パラダイス−付き合うと損するタイプの人
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漢緑釉壺
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僕が会社に勤めていた頃の話。
1965年ごろ、
後漢〈紀元1〜3世紀〉時代の緑釉の壺で
ちょっとましなものが300万円位していた。
骨董屋を立ち上げ独立したのは1980年頃で、
しばらく東南アジア出土のタイ、ベトナムの陶磁を
主に取り扱っていた。
あるとき同業者のFさんがたずねてきて
「島津さん、中国陶磁を取り扱わない?」
と言ってきた。
油断のならない人で、
「この人と取引するとかならず損するよ」
と同業者が噂をするほどの人だった。
何回か彼にアプローチされ、中国陶磁を購入したり、
委託品として品物を借りて
デパートなどで展示会をやったりしていた。
前漢人物俑〈今では1体10万くらい〉を
150万くらいで融通してもらい、催しに出展したこともあった。
そんなわけで薄々、
中国から骨董品がマカオや香港に出ているらしいと気づいていた。
それにFさんの取引が結構きついので
一度香港にいこうと考えていた。
そんな時、友人のKさんが
「香港に行かないか、いいものがあるよ」誘ってくれた。
それまで東南アジアへは良く足を運んでいたが、
香港とはなぜか縁がなかった。
彼と一緒に行った香港の骨董事情は
以前とはがらりと変わっていた。
嘗ては偽物や時代の若い清朝末の染付、
ケバケバシイ絵付の金にならない作品ばかりだったのに、
ハリウッドロードのチョッとした店にも
中国美術の名品があふれていた。
しかも前漢の人物俑などいくらでもあって
1体5万も出せばかなりなものが手に入る。
やはり噂通り同業者のFさんと取引すれば損する
と香港に来て気づいた。
Kさんに誘われ、
台湾出身の骨董ディーラーRさんのマンションを訪ねた。
エレベーターは豪華な内装でマホガニー張りだ。
確か14階だったと思うが、
エレベーターのドアが開いたらその前がRさんの部屋だった。
入り口には頑丈な鉄格子が嵌っていた。
ベルを押すと、中からガチャガチャと鉄格子を開ける音がした。
中からギーィとドアが開かれ、
若いフィリピン人のメイドが招き入れてくれた。
中に入り驚いた。
唐三彩、隋の緑釉大壺、北宋定窯の瓶など
名品が所狭しと並べてあった。
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