第112回
<とぴっく10>
脚下照眼―転がっていた初期伊万里の値段は2800万円
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蔵の逸品(その1) 種子島銃
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この仕事をしていると、
とてつもない幸運と、思わぬ地獄を見ることがある。
これまでは商品学をやっていたが、
ずいぶん長くなってしまったので、
ソロソロ卒業してとっておきの僕のエピソードを話してみよう。
この世界に入りたての1970年頃のことだ。
当時僕は種子島やスペインの大砲なども扱っていた。
そんなわけで奈良県のYさんという
コレクターの家に招かれることになった。
その家は代々繊維関係の仕事をしている。
家の敷地が500坪を超える旧家だった。
コレクションの話となれば、
旧家の当主であろうと、駆け出しの若造であろうと
趣味を同じくする同士、打ち解けて話が出来るのである。
Yさんは素晴らしい銃砲コレクションを蔵から出してきては、
あれやこれやと自慢して見せてくれた。
「あんた、この象嵌は毛利家の家紋ですよ。いいでしょ」
僕が頷くとまた横の銃を取り出す。
「徳川家のものですよ。日本に一丁しかない」
と言って象嵌の箇所を指でこつこつたたきながら
自分でも頷いている。
そのうち1丁ずつ持ってくるのが面倒になったのか、
あるいは僕を信用してもよいと思ったのか、
蔵の中を見せてあげると言い出した。
「いや、いや、そこまで甘えるのは悪いですよ」
と言いながら僕も好きなもので、腰は上がっていた。
長い廊下をどんどん行くとポツンと途切れ、
その先の靴脱ぎの大きな石の上に突っ掛けがあった。
その向こうに重々しい白壁の蔵が見えた。
Yさんは大きな時代物の鍵で蔵の扉を開け、
中に入って電灯をつけた。
入り口から中をのぞくと、
種子島銃や大型の手筒なんかが、
ずらっと立て掛けてあるのが見えた。
どれも手入が行き届いていて、
かなりの値打ち物という雰囲気が伝わってきた。
そんな銃がざっと百丁くらいはあった。
Yさんの自慢話も頂点に達し、聞くほうも疲れてきた。
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