第113回
<とぴっく10>
脚下照眼―旧家の蔵は要注意!
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蔵の逸品(その2)甲冑
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そんな時先程入ってきた蔵の扉の横に
茶色く変色した藁縄で縛った皿が目に飛び込んできた。
銃はもう飽き飽きするほど見たので、
陶器でも見せてくれないかな〜と思っていたところだった。
「あれなんですか?」
「昔からあるもので、伊万里かなんぞの皿ですよ」
と気のない返事が返ってきた。
「ちょっと見せてもらっていいですか」
と、Yさんの返事も待たず、入り口に行きしゃがみこんだ。
重ねられた皿の藁の部分を片寄せて中を覗き込んだ。
「なんと!」
生がけ独特の柔らかい釉肌がのぞいている。
初期伊万里の皿だった。
絵付はどんなだろう、
と力を入れて藁と縄を大きく掻き分けると、
「ブスッ」と低い音がして縄が切れてしまった。
もう殆ど腐っている状態だったらしく
当主もこちらを見ているが、別に文句を言う風でもない。
しかし、僕はほっとした。
縄を掴んで持ち上げていたら
今頃2、3枚割っていいたことだろう。
Yさんは詰まらんことをやっているな
と言う顔をしてこちらを見ている。
「すみません。縄切れてしまったようです」
「ええよ。ええよ」と鷹揚に言ってくれた。
おかげで皿の文様もはっきりと見えるようになった。
「ひえ〜」
中央に吹き墨の兎。
それに石榴と月白兎と書いた短冊の絵が施されている。
直径は20cmくらいの皿で、骨董愛好家が言う7寸皿だ。
数えてみると10枚あり、
それぞれ美しい傷のないものであった。
少なく見積もって1枚150万くらいはするだろうと思った。
(当時大卒の給料が1ヶ月確か10万くらいだったように思う)
鉄砲のことは僕の頭の中からすっかり消えてしまった。
「これゆずってくれませんか?」とYさんを見た。
「ええよ」と一言簡単に言われた。
そしてこんなものどうするんだと言う顔をした。
ゴクッとつばを飲み込んで、
一番大切なことをさらっと聞いた。
「いくらで譲ってくれます?」
「幾らでもいいよ。そんなの」
と言って中の一枚を下駄で軽くこんこんと蹴った。
僕は思わず皿を抱え込んだ。
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