| 第26回応用編(4)
 悪い骨董屋(海外編)−だましの手口
 「どんなものが揚がってくるか分からないし、海上がりはかなりダメージも大きいよ。」
 「そうなんだよ。そこが問題なんだ。
 でも中にはいいものがあって、
 ヨーロッパ辺りに飛ぶように売れているんだ。
 特にオランダ人が買うんだなこれを」
 確かにマーケットに清朝中期くらいの染付の一群が出ていたし、南宋時代の影青風な作品もかなりな数が出まわっている。
 しかしどれも大して魅力的ではなかったのでそこを突いた。
 「今揚っているものは日本ではたいした値打ちもないよ。
 南宋の青磁でもあれば別だが」
 「それがあるんですよ。損はさせない。
 二千ドルほど預けてください。
 きっとあなたの希望するものを持ってきますから」
 という風にどんどん自分の都合の良い方向へ
 人を褒めながら持っていってしまう。
 彼は天才的な話術を心得ていた。
 僕は危ないと思ったのでこの話には乗らなかった。
 あるとき親父と話しているとき客が入ってきた。あまり骨董は詳しくないと見えて
 真剣にコピーの明染付の瓶を見ていた。
 親父はスーッと近づいて
 「お客さん、いい目をしてますね。
 この染付の瓶は値打ち物ですよ。美術館クラスです」
 と持ち上げた。
 客もまんざらでもない顔で「幾ら?」と聞いた。
 「安くしときます。
 本当は5000ドルはするものですが
 事情があって500ドルなんです」
 というと客はびっくりした。
 さすがに500ドルと言われて、
 ほんとかなという感じで高台の辺りや、
 瓶の口をしげしげ見直している。
 「何故こんなに安いの」と首をかしげながら聞いている。「持ち主がね、一日も早く売りたいと言っているのです。
 それにしてもお客さん正直ですね。
 高いと言われることはちょくちょくありますが、
 安いと言われたのは初めてです。正直な方だ」
 と言って客の背中に手を回したかと思うと
 バンバンと背中を叩いた。
 これで客はころっと参ってしまって、
 財布から500ドルを取り出した。
 それを見て、なんとすごいことをやるのかと感心した。
 受け取った500ドルに口づけをして机の引き出しに仕舞った。30分ほどして先ほどの客が赤い顔をして入ってきた。
 どうやら他の店で先程の染付の瓶を見せたようだ。
 けちを付けられて返しに来たのだったが、
 親父はなんだかんだと言ってその場を切り抜け、
 さらにもう300ドル偽物を売りつけてしまった。
 海外にはこんな手合いの店が少なくないから気をつけよう。
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