| 第25回応用編(3)
 悪い骨董屋(海外編)―コールマン髭の誘惑
 インドネシアのジャカルタにジャラン・チモール・ダラームという通りがある。
 そこにこじんまりとした骨董屋があって、
 親父はコールマン髭のやや長いのを生やしている。
 笑顔がとてもいいし、
 行く度にお前の目はダイヤモンドだとか、
 翡翠だとか言って褒めてくれるので
 僕もいつしか彼をいい奴だと思うようになっていた。
 しかし、彼の店にある品物は99%偽物だし、どこか胡散臭いものばかりだった。
 どうしてこんなにいい人なのに目がないのだろうか
 と常々思っていた。
 しかし机の引き出しから
 「ノリキ、あんたのためにとって置いたんだ」
 と言って小さな小壷や茶碗を取り出してくるものは、
 ぎりぎり水準くらいで2回に1度は義理で買うこともあった。
 あるとき「あんたこんなに沢山並べているが
 皆コピーばかりでよく商売が成り立つね」
 と彼の痛いところを付いてしまった。
 しかし親父は悪びれることなく、
 「そうなんだ。しかし、ノリキは良くこの写し物が分かったね」
 とまた褒めてくれる。
 「私だってこんなものは扱いたくない。
 資金さえあればかなりなものを集めることができるんだが
 何しろ資金がないからね」
 と言って僕の財布の中身を探るような目つきで
 ウエストポーチをじろっと見た。
 「あのネ、骨董は目と足で稼ぐというよ」と言うと「そうだ。アンタはいいことを言う。
 確かにインドネシアでも同じようなことわざがあったがね」
 と、姿勢を変えてまた褒め殺し作戦に出てきた。
 髭と笑顔がいいので、ついついこちらも釣り込まれてしまって
 彼の話を聞いてしまった。
 「ノリキ、資金さえあれば。
 今ジャワの海でいいものが揚がっているんだが、
 あれを買わんか」
 と言い出した。
 続く・・・・・ |