誰が日本をダメにした?
フリージャーナリストの嶋中労さんの「オトナとはかくあるべし論」

第146回
猿にも劣る

私は扁平足のせいか、とても疲れやすい。
長時間立っているのが、どうにもつらい。
だからといって、電車内の空席を獲得すべく、
ドアの開くが早いかしゃにむに突進する、
なんてはしたないことはしない。
武士は食わねど高楊枝。
ほんとうは座りたいのだけれど、痩せ我慢をする。
ええかっこしぃで言わせてもらうなら、
私は醜い「楽」より、美しい「苦」を選ぶ。

東大の木村尚三郎教授はむかし、
パリは凱旋門の下で、アッパッパー(古いね、どうも)を着た
農協のおばさんが、
ベターッと地べたに腰を下ろしているのを見て心底驚いたと
『ヨーロッパからの発想』の中に書いている。
欧米人だってもちろん、
家の中では椅子に腰かけたり床に座ったりするが、
屋外では必ずしも座ることに執着しない。
そこがアッパッパーのおばさんと違うところで、
《二本足でチャンと立てるのが、
 動物とは違った人間の人間たるゆえんであり、
 心身の健全な証拠、というわけなのだろう》
と指摘。
さらに、無防備に座り込んでいたら、
いざ敵に襲われても応戦できぬ。
で、
《自己防衛の心が、中世いらい今日まで、
 ヨーロッパ人の生活感覚の根底に横たわっているから、
 家の中でも、キチンと膝を揃えた椅子の座り方をする》
と結論づけている。

一方、アッパッパーのおばさんだが、
木村教授の指摘を待つまでもなく、
まぎれもなく農耕民族の末裔だ。
戦前までは日本人の七割が農民だった。
農民は田畑の中で、長い時間中腰ですごす。
ドッコイショとばかりに畔道に腰を下ろすのを
無上の幸せと感じていた。
つまり、やたら地べたに座りたがるのは、
木村教授の言葉を借りれば、
「民族のつらい記憶のせい」だというのだ。

人類の二足歩行は紀元前400万年前に始まったとされている。
猿と人間との違いは、長時間の直立に耐えられるか否か。
最近ではレッサーパンダの直立歩行が話題になったが、
人類400万年の技には到底及ばない。
しかるに日本には、ところかまわずウンコ座りをしたり、
車中にもかかわらず床に座り込んでしまう
ジベタリアンという猿に似た一新種が登場してきている。
人類が営々と磨き上げた直立歩行の技を
放棄しようとしている連中だ。

私の敬愛する斎藤緑雨は100年も前にこう看破している。
《猿の進化して人となれりといふは、
 人の進化して猿となるの今日に在りて、
 迂腐の見なること疑を容れず》と。


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