第138回
「お受験」の功罪
団地内に小学生の美人三姉妹がいる。
ハムスターを散歩させていた折に知り合って、
親しく言葉を交わすようになったのだが、
この三姉妹、親のしつけがいいのか、
実に折り目正しくしっかりしている。
言葉づかいも丁寧で、目上に対しては敬語を忘れない。
最初はいくぶん警戒していたようすだったが、
ハムスターを抱かせてやったら安心したようで、
学校のことや友だちのことなどを、
いろいろ話してくれるようになった。
聞けば三人とも、
女子の「御三家」と呼ばれる
東京の私立名門校に通っているという。
電車通学で片道およそ一時間弱。
小さな身体で、
毎朝ラッシュアワーの人波に揉まれるのはさぞつらかろう。
が、つらい分だけ中学受験、高校受験から解放され、
思うぞんぶん学園生活をエンジョイできる。
小中高の一貫教育。
子に余計な苦労はかけたくないと、
親たちが名門私立校の“お受験”に血道を上げるのも、
故なきことではない。
三姉妹と遊んでいて気づいたのは、
彼女たちはいつも一緒ながら、
他に遊び相手がいないということだ。
たまたまそうであったのかも知れないが、
地元の小学校に通っていないのだから、
当然といえば当然のこと。
幸い女三人だから、なんとか遊びを工夫しているようだが、
どこか淋しそうに見えたのは、私の勝手な思い過ごしか。
エスカレーター式で中高、あるいは大学まで行ければ、
受験戦争とやらの洗礼を受けずに済み、
その分伸びのびと学園生活を送ることができる、
というと、いかにももっともらしく聞こえるが、
受験をしないで済ませることが、
ほんとうにその子にとって幸せなことだろうか、
と時々思うことがある。
私はかつて「ガリ勉」と呼ばれていた。
よろず試験は大好物で、授業では大あくびをしていても、
試験となると目の色が変わった。
私たちこそ「受験戦争」世代のはしりで、
キナ臭いことの好きな私は、戦争と聞くだけで興奮した。
それにしても地獄だとか戦争だとか、
マスコミは大袈裟に騒ぎすぎる。
戦いであれば勝ち負けはある。
私など負けてばかりいたが、
負けて自尊心がズタズタにされ、
増上慢の鼻をへし折られるのもいい薬になるのだ。
大事なのは、自分の運命は自分で切り拓くという
気迫と情熱である。
親の敷いたレールの上に安住していると、
その気迫が萎えしぼみ、
ついには戦うことのできない人間になってしまう。
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