| 第135回女とダイエット(その二)
 私は半年で10キロほど体重をしぼった。痩せることなど簡単だ。
 少しばかり節制するだけでいい。
 しかし私はこの「節制」が大の苦手で、
 食べたいものが食べられないのなら痩せなくてもいい、
 とすぐ開き直ってしまう。
 ふつうに食べて痩せる――
 これこそがダイエットの理想である。
 これができないから、みな四苦八苦しているわけだが、
 私の場合は苦もなく痩せた。
 いっぱい食べ、いっぱい飲んで痩せた。
 それもウォーキングとスイミングだけで。
 おかげで内臓脂肪はきれいに取れ、太鼓腹からも解放された。
 それこそダイエット本でもホイホイ書けば、
 痩せたい願望の女たちの福音になること請け合いなのだが、
 有名人でも何でもないので、本はまず売れっこない。
 だから書かない。
 もったいない話である。
 話変わって「ヘンゼルとグレーテル」だ。お菓子の家と魔女で知られる有名なグリム童話だが、
 中身は深刻な子捨てと人喰いの話である。
 当時、森に捨てられれば、
 飢えや狼によって、確実に死ぬことを意味した。
 「赤ずきん」も一面姥捨ての話だから、
 どちらも間引き、口べらしがモチーフになっている。
 幼い子供たちを森に捨ててしまう。
 なんて残酷な親だろうと、読む者は悲憤の涙を流すが、
 ヨーロッパ中世の人たちなら決してそうは思うまい。
 明日の糧にも事欠くほど、中世ヨーロッパ人は貧しかった。
 ひもじさのあまり、わが子を食べてしまうことさえあった。
 人喰い伝説は至るところにある。
 捨てられるだけまだマシ、ということなのだ。
 《女という生き物は、娘時代の貴重な時間とエネルギーのほとんどを
 「過食」と「拒食」の間を
 行ったり来たりすることに費やしてしまう》
 と名言を吐いた人がいる。
 女たちは、痩せが美しいとなれば、
 どんないかがわしいダイエット食品にも万金を惜しまない。
 で、挙げ句の果てが拒食症だ。
 豊かな先進諸国特有の病気で、
 デブは「我らが首領さま」だけ、という国には縁のない病気だ。
 飽食の末路が、食べものを受けつけない身体で、
 そのため絶えず飢えているとしたら、こんな皮肉な話はない。
 地球上では、毎日三万人の子供たちが痩せさらばえ、餓死しているという。
 痩せたいなどと、
 つまらぬことに人生を浪費してしまう飽食の国の女たち。
 痩せた先にいったい何があるのか。
 それが「きれいになったね」のただ一言だとしたら、
 あまりにも悲しい。
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