誰が日本をダメにした?
フリージャーナリストの嶋中労さんの「オトナとはかくあるべし論」

第105回
犬肉はマシッソヨ!

子供のころ、母が「今夜はトンカツよ」というと、
それは鯨カツだった。
まるで詐欺みたいなものだが、
カツといえば、わが家では鯨カツを指した。
高価な牛肉や豚肉はめったに口に入らず、
乳臭い牛肉などよりむしろ鯨肉のほうが舌に馴染んでいた。
当時、鯨のベーコンなどは安価なものの代表で、
飽きるほど食べたものだが、今じゃ高価でとても口にできない。
学校給食では鯨の竜田揚げが定番だった。
また貧乏学生だったころは
新宿の通称ションベン横丁にあった
煤ぼけた鯨カツ屋によく通った。
私の青春時代は鯨肉と共にあった。

その鯨が気軽に食べられなくなったのは
商業捕鯨が禁止されたためだ。
反捕鯨国は動物愛護、環境保護の名の下に、
利口でかわいい鯨を捕る野蛮な国(日本やノルウェーなど)を
口汚く非難する。
いくら科学的根拠を示し、
商業捕鯨の再開を訴えても聞く耳をもたない。
勝手なものだ。
また一方で、安価な牛肉や豚肉が容易に口に入る時代となった今、
鯨肉を「国民に不可欠なタンパク源」と位置づけるのは困難、
とする議論もある。
それも一理あるが、科学的データを無視して、
ただワーワーと感情的に反対しているだけの反捕鯨国の主張に、
なぜおめおめと膝を屈する必要があるのか。
反捕鯨グループの中には、
日本人が捕獲した鯨の数だけ日本人を殺せ
と主張する過激なものもあるという。
聞けば、過保護で増えすぎた鯨が漁業資源を食い荒らし、
生態系を狂わせているという報告もある。
それ見たことか、だ。

竹島問題では異を唱えるコリアンの友人T君も、
クジラ問題に関しては心からの同情を寄せてくれる。
韓国の伝統的な犬肉食用文化に対する
数年来の欧米諸国の言いがかりに、
いいかげん頭にきているからだ。
「フランス人はフォワグラのために
 ガチョウを虐待しておきながら、他国の食文化にまで口を挟み、
 野蛮だと非難する。勝手な連中だ」
と憤慨する。
で、私たち野蛮人は、
新宿の補身湯(ポシンタン)専門店に陣取って、
焼酎をあおり、犬鍋をつつきながら、
大いに気勢を上げたのである。

自分たちの生活様式や食文化が最高で、
それ以外の文化を下位のものと見たがる偏狭暴慢な欧米人たち。
鯨肉や犬肉のうまさを知らずに一生を終えてしまうとは、
なんてお気の毒な人たちなのだと、今は哀憐の情さえわいてくる。
日本人に生まれて、ほんとうによかった。


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