誰が日本をダメにした?
フリージャーナリストの嶋中労さんの「オトナとはかくあるべし論」

第82回
車庫入れ、大っきらい (その二)

女性は空間認識能力が男より劣るという説はホンマかいな、
という話をしている。
そういえば、車庫入れをしているときの女性の表情には、
一様に不安の影が差している。
(ええーと、ハンドルを左に切りながらバックすれば、
 たしか車のお尻は左に振れるのよね。
 あれっ? 右だっけ?)。
車が今、どっちの方向を向いてバックしているのか、
前輪後輪がどのような弧を描いているのか、
さっぱりわからない。
わからないから、バックミラーを見るでもなく、
窓から顔を出すでもなく、
両手でしっかりハンドルを握りながら、
どうしていいかわからないといったふうな顔で、
いたずらに目をしばたいている。

人類創世以来、
だだっ広い世界で狩猟や戦闘に明け暮れてきた男たちは、
自然と空間認識能力を高めてきたが、
家庭という狭い世界で家事育児にしばりつけられてきた女たちは、
その能力を高めようがなかった。
だから女性が車庫入れを苦手とするのは
進化論的にも十分説明がつく、
というわけなのだが、
私は専門家でもなんでもないから、事の正否はわからない。
ただ、いかにも俗耳に入りやすい説ではある。

概して女性は、
自分にない能力を見せつけられると
コロリと参ってしまうところがある。
なにしろゴキブリを退治してやっただけで
尊敬される場合もあるのだから、
日頃、ゴキブリ亭主と軽んじられていても、
望みを失ってはいけない。
もっともゴキブリを撃退するためだけに
飼われている亭主もいるというから、
喜んでばかりもいられない。

日頃小バカにしている亭主が、
雪道で手際よくタイヤチェーンを巻いたりすると、
(へーえ、うちの宿六なんて
 靴下も満足に履けないと思ってたのに、
 意外と頼もしい一面もあるのね。ちょっぴり見直しちゃった)
と、惚れ直してくれる場合だってある。
古女房が惚れ直してくれるくらいだから、
目の前で一発車庫入れを見せつけてやれば、
めざす女性のハートを射止める確率だって当然高くなろう。
だが最近は、
自動駐車システムを装備したハイテク車が開発され、
車庫入れも縦列駐車も
ハンドルを握らずしてやってくれるというから、
せっかくの“ええかっこしぃ”も肩すかしを食う恐れがある。
車はオートマで、車庫入れまでオートマ。
男の出番はますます狭められ、
女の鼻息だけがどんどん荒くなっていく。


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