第381回
邱永漢さんの≪言葉≫の威力・1
邱永漢さんから、
作家で画家の玉村豊男さんが書いた近著
「邱永漢の予見力」(集英社新書
税込756円)が
贈られてきました。
この本の誕生のいきさつは、
邱さんのコラムで何度か紹介されていましたので、
ご存知の人が多いと思います。
邱さんが10年前に書いた
「マネーゲーム敗れたり」の≪アメリカ凋落の予言≫が
ぴたりと当たっていた――というのが発端です。
僕の現役編集長の頃にも、
不況の波が何度も何度も襲ってきましたが、
邱さんの物事を見極める慧眼に感嘆し
毎年のように連載エッセイをお願いしてきました。
ご存知のように、
台湾独立運動、香港亡命という若き日の波乱万丈を経て、
やがて、日本で直木賞作家となった才人ですから、
予見力に優れていることはもちろん、
昔から、そのエスプリを含んだ独特の≪語り口の巧みさ≫、
読む者や聞く者を引きつけて離さない
≪言葉の説得力≫が群を抜いておりました。
そして、本やコラムのタイトルをつける天才でした。
いまも鮮明に覚えていますが、
最初に頂いた連載エッセイのタイトルは
「悪い世の中を生きる知恵」でした。
続いて、円高不況で日本中が落胆しているときには
「不死鳥は円高の灰の中から」という、
洒脱な予言キーワードをタイトルに頂きました。
日本経済の蘇生と付加価値経済の到来をズバリ予言。
爾来、ほんとうに、日本がうなぎ登りの如くに
未曾有の高度成長の道に突入し、
次々と連載エッセイの予言を的中したわけですから、
僕の率いる「週刊ポスト」は、それまで、
60万部ほどで逡巡していたのですが、
あっという間に、
売上100万部を超えてしまったのです。(^0^)
本書の中でも、いかにも邱さんらしい、
「思い立ったらすぐに実行に移す」――
といった名言を残していますが、
率先実行の明晰な予見者であることはもちろん、
言葉で時代を≪わし掴み≫に出来る、
邱永漢はタイトル作りの天才なのです。
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