第291回
生きる喜び、生きる哀しみ
昔、現役の編集長時代にお世話になった
作家の三木卓さんから、
「懐かしき友への手紙」(河出書房新社)という
とても感動的な「いのち」に関わるエッセイ集が
贈られてきました。
三木卓さんといえば、戦時中、
小児麻痺(ポリオ)に始まって
腸チフス、敗血症を経験し、
いまも、心臓病、糖尿病など様々な難病を抱え、
いわば「病気のデパート」のような方ですが、
それを乗り越えて、果敢に珠玉の詩や小説、童話、
そして感動のエッセイを発表されています。
三木さんの作品は、美しい文章と
小さな花や虫を観察するような細やかさあふれる
絵画的で音楽的な手法が魅力ですが、
今回の新著の手法でも、いかにも三木さんらしい温かい
「いのちのデザイン」が施されています。
まず、目次を開くと、
「耳」「指」「膝」「肌」「眼」
「咽喉」「血」「歯」「胸」・・・
と身体の部分別の項目が、
まるで≪幼い子供たちをいとおしむように
行儀よく整列させている≫のが目に飛び込んできます。
作者はこの「いのちの連作」に込めた思いを
「あとがき」にこう書いています。
「僕たちは嘆きあうが、しかし、
反面、ぼくたちの肉体というものは、
とてもよくできていたのだ、という思いにも誘われる。
この世を生きるために都合よく、しかも強靭に作られている
そういうものにたよってこの世をわたっていくぼくらは、
天の恵みを浴びた存在だ。
そういう思いをどこかに感じながら、
人生空間を肉体の部分別にわけて、
大小のドラマを編集して象徴化するような
ものがたりをつくってみた(以下略)」と。
三木さんには、季刊「いのちの手帖」にも、
毎号のように、自らの闘病記、そして、
2つのガンとの闘いの末に、昨年、残念にも旅立たれた
奥様を偲ぶエッセイも寄稿していただいたことは、
覚えている方も多いでしょうが、
こんどの新著も、三木さんと苦楽を共にした家族や友人たち=
人生の伴走者への思いを込め、
「いのちのひとつひとつ」を縦横に観察描写しつつ、
「生きる哀しみ」を超えて、
「生きる意欲を奮い立たせてくれる」――ここが魅力です。
本を開いたら引き込まれるように読んでしまうはずです。
続きは、また明日。
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