第225回
≪ゆっくり生きる 懐かしさに還る≫――僕のガン死生観
≪長寿難病の蔓延≫と≪医療制度の破綻≫の世の中ですから、
≪生老病死≫の本が、次々と刊行されております。
僕の主治医・帯津良一博士の近著のタイトルをあげるだけでも
「生きる勇気、死ぬ元気」、「死を生きる。」、
「達者でポックリ。」・・・、
≪生きること≫も大変だが、≪死ぬこと≫も大変な作業だと、
教えてくれるものばかりです。
いや、一昔前でしたら「死」を本の題名にするなど
<縁起でもない><売れない>と忌み嫌われたものです。
20数年前、円高不況の頃の話となりますが、
邱永漢さんに不況脱出法の本をお願いしたことがありました。
「不死鳥は円高の灰の中から」という、
≪再生シンボル=不死鳥≫をイメージする題名でしたので、
含蓄深い、いいタイトルだなァと思っていたところ、
「死のつくタイトルの本は売れませんよ」と、
猛然と販売担当者から反対が出たため、邱さんに相談し、
急遽、「円高に克つ」と変更していただいたことがあります。
そのためかどうか?
この本、10万部のベストセラーになったのです。
そんな昔話を思い出しているさなかのことでした。
偶然にも、同じ古巣の出版社から「死ぬという大仕事」(小学館)
というタイトルの本が贈られてきたのです。
まさに、20年という歳月は≪一昔≫なのですね・・・。
ま、それはともあれ、この新刊は辛口の評論家として活躍し、
この4月14日に逝去された上坂冬子さんの貴重な闘病記でした。
'08年秋にガン再発し、手遅れと言える状態から、
モルヒネなどの≪緩和ケア治療≫を選択することで
残された半年間を有意義に過ごされたという
ノンフィクションです。
あくまで、西洋医学の≪抗ガン剤から緩和治療まで≫を
信頼して闘病を続け、上坂冬子さんなりの
≪納得のいく医療≫を模索した選択肢でした。
僕のように、西洋医学一辺倒の医療システム自体に
疑問を抱いている立場とは対極にありますが――、
ここで治療選択の是非については申し上げません。
しかし、自らの病状(卵巣ガン・W期)を素直に受け入れ、
「いかに自分らしく死ぬか」という大命題に立ち向かい、
病床にありながら、持ち前の果敢な取材力と追求力で、
「大病院のあり方」や「現行医療制度の是非」について、
次々と担当医に鋭く質問を浴びせる対論は圧巻です。
「自分の人生は自分で決めたい」とする
いかにも上坂さんらしい真摯な態度であり、
とくに末期ガンに対する「緩和ケア」の問題点が
見事に浮き彫りにされていますから、
患者さんや家族の方々には一読をお薦めします。
ちなみに、先月、僕自身、明治大学の
≪文化としての生老病死≫講座セミナーで
寝たきり長生きではなく、元気で長生きを目指そう――という、
≪病老観≫≪死生観≫について
1時間半ほど喋ってきたという話は、前に書きました。
僕の≪病老観≫は、「自然に過ごす」といいますか
「ゆっくり生きる」(スローヘルス)を
常日頃から目指しています。
≪死生観≫は、ただ「自然に帰れ」というより、
「いのちの懐かしさに還れ」ということにあります。
遥か彼方の「虚空」「天国」にしても、
「極楽」「浄土」にしても、まっしぐらに進む死の世界とは、
やはり≪懐かしさのある生命場に還る=cominghome≫
でないとイヤですね。
≪生まれたところに還る≫≪土に還る≫≪創造主のもとに還る≫、
そして≪虚空に還る≫――どれでもいいと思いますが、
≪懐かしさに還る≫これが生老病死の最高の境地だなァと、
勝手に考えているわけです。
この長寿難病時代――、あなたは、どんな
≪病老観≫≪死生観≫を持っておられるでしょうか?
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