第226回
邱さんの体験的ピンチ脱出法『朝は夜より賢い』
いまは廃刊になった『オール生活』誌の昭和57年2月号から
1年8ヶ月の間、邱さんは「果報は練って待て」と
題した連載を書きました。
この連載中に、この題名を使って本を出す人があり、
邱さんは二番煎じと見られてもまずいと考えて、
昭和58年に題を『朝は夜より賢い』と改めて出版しました。
この作品の執筆にかかった昭和57年といえば、
戦後から続いた高度成長が終息し、
物の生産能力が需要を上回るようになって、
経済が成熟化したといわれるようになった時期で、
戦後から経済活動に従事してきた人々も、
昔のスタイルのままでは時代に適応できなくなりました。
そうした経営者たちの悩みを念頭において
邱さんは自分の体験を振り返りつつ、
変化の中を生き抜いていくための知恵のすべてを書いたのです
この『朝は夜より賢い』の副題は
「私の体験的ピンチ脱出法」です。
この著作を発表した翌年に『野心家の時間割』
という本を発刊しましたが、
この本のなかで邱さんは『朝は夜より賢い』にふれています。
「夜中に目を醒まして眠れないのは大抵、
仕事のことで思うに任せない時とか、
人間関係で頭にきている時とか
あるいは、恋でもしている時である。
夜寝ないと翌朝の仕事に支障をきたすから
意識的に寝ようとするが、寝ようと努力すればするほど、
目はかえって冴えてくる。
しまいにはベッドから這い出してきて、
相手にぶつける手紙を書くようなこともあるが、
翌朝、寝ぼけまなこでもう一度、読み直してみると、
全くお話にならないようなことが書いてある。
恋をしたことのある人なら、
また夜中にラブレターを書いた覚えがあるであろう。
そこで、最近、私が書いた
『朝は夜より賢い』という本の扉に
『夜考えることは過激すぎるか、悲観的になりがちです。
君よ、考え疲れたら、ベッドに入りなさい。
明日から先のことについては、
朝になってから考えてもまだ充分、間に合います。』
と書いた。」(『野心家の時間割』
昭和59年)
これに続く、短い「まえがき」で邱さんは
「難しい世の中になったので、
ピンチに足をとられそうになった人たちのために
この本を書いた」と付言しています。
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