第220回
推理小説を最後の頁から読むような楽しみがある『奔放なる発想』
平成2年、文庫版の『奔放なる発想』が出版されました。
この文庫版では唐津一さんが作品の解説を書いていますが、
邱さん自身「文庫版へのまえがき」を書いています。
「僅か7、8年の期間だが、
この期間にいかに大きな変化があったかが、
この本をパラパラとめくってみて拾い読みしただけで、
思いを新たにする。
日本が大幅黒字国になるだろうこと、
その結果、日米間の経済摩擦がエスカレートされ、
日本の企業が大挙してアメリカに工場を移すだろうことは、
今日になってみればすべて現実の出来事になってしまったが、
7、8年前にはまだ眉に唾をつけてきく
絵空事の段階を出ていなかった。
たとえば53年に、対米貿易黒字ははじめて100億ドル台にのり、
56年度は180億ドルになった。
それが、60年度には250億ドル台にふえるのではないかー
という時だって、私は遠慮がちに、
しり込みしながら、述べている。
また日本の銀行が将来、
アメリカを席巻するようになるだろうと私は予想したが、
“近い未来にまさか、
『日本の銀行がバンク・オブ・アメリカを
買収にかかっているぞ』ということにはならないだろうが、
ウエスト・コーストの地方銀行が
日本の銀行の傘下に入っていくようなことが
次々と起こるだろうと私は見ている”
とこれまた疑問符のついた表現を使っている。
といったことからわかるように、
今では常識になってしまった日米間の経済摩擦が
たったの7、8年前には決して常識ではなかったのである。
私は円高の進行によって
日本はオートメ化へ急速に傾斜すると考え、
人件費を節約するために、
日本人は関東地方に工場地帯を終結させるだろうと予想した。
これらのことはいずれも大筋ではあたっているが、
『オートメ化が一代遊民をつくるだろう』
という見方は必ずしも正しいとはいえない。
負け惜しみを言わせてもらえば、
『遊び産業に従事する人が増えた』と云う意味で、
人手不足は以前にもまして深刻になっている。
以上からもご推察の通り、
この本には推理小説を最後の頁から読んで、
作者の苦労のあとを意地悪く観察する面白さはあるように思う」
(文庫版『奔放なる発想』の「まえがき」)
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