第219回
海外投資の活発化を予見した『奔放なる発想』
邱さんは『奔放なる発想』を執筆してから
8年たった平成元年に『アジアの風』を執筆し、
同名の本を出版しましたが、
その中で『奔放なる発想』で予見した海外投資が平成元年には、
普通の一般投資家の関心事になってきていると書いています。
「私が『奔放なる発想』というアメリカと日本の勢力関係が
逆転するであろうことを予想した本を出版したのは、
昭和58年の春のことであった。
この本も出版に先立って
『VOICE』誌に15回にわたって連載したから、
執筆をはじめたのは56年のことである。
その中で私は次のように述べている。
『現在進行中の日本とアメリカの経済戦争を、
一昔の火砲戦にたとえるのはあまり適当でないかもしれない。
しかし経済戦争も、相手の土地に橋頭堡をつくり、
陣地を攻めとって、自分たちの色に塗っていくわけだから、
昔の戦争とよく似たところがある。
日本の企業がアメリカの企業との攻防戦で、
橋頭堡をどこに築くかと考えるのはごく自然な発想であろう。
これから次々と日本企業がアメリカに進出するとなれば、
日本メーカーの工場地帯がカリフォルニア州に集中する
と考えるのも決して飛躍した発想ではないだろう。
とすると、私の頭にこべりついて離れないのは、
中国大陸の東北三省にかって日本軍が進軍ラッパの音高く
進め進めと進軍していったあの時代である。
“もしかしたらカリフォルニア州は
かつての満州国みたいになるのではないだろうか”
いやいや、その表現は適切でない。
先ず第一に昔と今とでは時代が違う。
経済進出と軍事力を背景とした植民地づくりとは
本質的に違ったものである。
そう思って一応は強く、否定してみるが、
『太平洋は地中海だ』とすれば、
地中海をめぐる攻防戦が、海の向こうとこちらの間で
めまぐるしく起こるだろうことは先ず間違いない。
一旦、そういう具合に妙なことを思いつくと、
この目で本当にそうなるかどうかを確かめないと
気がすまないのが私の性格である。
そこで、私のところへ集まってくる仲間に呼びかけて、
一体、日本人はアメリカのどのへんに集中するのか、
もし集中するとすれば、どこで不動産投資をすればよいのか、
を研究する視察団を組織して、
何回も、アメリカへ出かけて行った。
あの時、私に誘われて出かけた人々の大半は、
私にそう言われたから、ともかく行ってみることにしようと
すぐに応じてくれたが、恐らく心の中で
『アメリカくんだりまで工場をつくりに行ったり、
不動産を買いにいくなんて、とても僕らのやることではない。
邱センセイはどうして三井不動産や
住友不動産の社長に話しかけるようなことを
僕らに話しかけるんだろう?』
と疑問を抱いたに違いない。
しかし、あれから7、8年たち、今日になってみると、
海外投資は小金を持っている人のすべての関心事となった。
日々の新聞や雑誌は、
ハワイ、ニューヨークの物件の広告が出ており、
東京や大阪でも海外の不動産会社の説明会や
セールス活動がよく行われるようになった。
私も頼まれてそうした講習会で
ごく一般的な海外投資事情について講演することがあるが、
大きなホールがいつも一杯になる。」
(『アジアの風』平成元年)
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