Qさんの本を読むのが何よりスキ
という戸田敦也さんがQライブラリーのガイド役をつとめます

第210回
文人や実業家たちとの交際録『邱飯店のメニュー』

邱さんは昭和57年5月から12月まで約7ヶ月、
『週刊ポスト』『邱飯店のメニュー』を連載し、
昭和58年、 中央公論社 から出版しました。
「食べ物の話が新聞雑誌に盛んに登場するようになった。
食べ物の話は『話』の方が先にあるのではなくて、
『食べ物』の方が先にある。
私の家も、その例外ではなく、
『食は広州に在り』『象牙の箸』『食前食後』
『奥様はお料理がお好き』と書いてきたが、
いずれも、食べ物についての執拗なまでの情熱が先にあって
そのおかげでおいしい料理にありつき、
そのままおつりのような形で、
本が生まれてきたものである。

私が食べ物の話を書きはじめた頃は、
まだ日本全体が貧乏で、たとえば昭和32年に
私が『食は広州に在り』の中で
『満漢全席』の話を書いた時は、
昔の清朝の宮廷の夢物語として読まれたと思うが、
今では日本人が大挙して香港まで賞味に行く時代になった。

食についてゼイタクの歴史は、
日本ではせいぜい25年しかないが、
わずか25年で、日本人の水準は、
中国人やフランス人に追いつき、
追い越さんとばかりのいきおいをしめすようになった。

食べ物に関する本がよく売れるようになったし、
私の書いた本がたまたま
その中に数えられるようになったせいもあって、
私はしょっちゅうそういう種類の本を
書いているように見えるが、
実は二十年間も書いていない。
しかし、我が家にはこの30年来、
お客を招待したときのメニューが保存されており、
そのメニューを眺めていると、
いろいろとおいでいただいた方々の思い出や
世の移り変わりが目に浮かんでくる。
それはそのままこの30年の日本の文化や経済の
裏面史みたいなところがあるから、
いっぺん、我が家のメニューを中心に
『舞踏会の手帖』みたいな話を書いてみたいと思っていた。

私はそれを日本経済新聞夕刊に書くつもりだったが、
『週刊ポスト』に連載することが一足先にきまり、
ほとんど同時に日本経済新聞からも執筆依頼があったので、
『邱飯店のメニュー』と『食指が動く』と
二本同時に連載することになった。
おかげでずいぶん賑やかにやっているように見えるが、
食べ物についてのエッセイ集を書くのは
本当に久方ぶりなのである。」
(『邱飯店のメニュー』まえがき)

『奥様はお料理がお好き』が出版されたのは
昭和39年のことですから、19年ぶりのことなんですね。


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2003年3月25日(火)

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