第191回
『ダテに年はとらず』は新人、熟年激励の書
“熟年”というコトバには老人になりつつある人の
やりきれなさのムードが漂っているという
前回の邱さんの言葉、実は『ダテに年はとらず』の
「まえがき」なのですが、その後の言葉です。
「こうした自信喪失は女性に殊のほか多く見られ、
近頃の50、60のオバンのいじけていること。
年をとることはいずれにしても避けられないが、
どうせ年をとるなら『美しく年をとること』
が何より大切ではないか。
ところが『美しく』というと、中年女はすぐ、
整形手術を連想してしまう。
おかげで、似たような顔付きをした
(シワを無理にひっぱると、人間の顔付きは
どれもこれも似てくるものらしい)お化けが
銀座や赤坂の夜やブラウン管の中に
大量に出没するようになってしまった。
この新しい波は、大洪水になっていまや夜の街から
家庭の壁を乗り越えるほどの勢いを見せている。
私に云わせると、『年をとっても美しく』という指標は、
女性だけに課された『刑罰』的な努力目標ではなくて、
男も女も同じように背負っている『十字架』であり、
主として精神的な努力で実現に近づけるものである。
精神的に豊かであれば、それが表情にも現われ、
生活の端々にも現われてくる。
もちろん、そのためには老後の生活を
おびやかされないだけの経済的な余裕も必要であるが、
折角若い人たちより長く生きてきたのだから、
そういう先輩としての知恵を生かさない手はないと思う。
『ダテに年はとらず』というタイトルは
そういう姿勢から生まれたものである。
私とほぼ同年代の『新人』熟年たちのために
いくらかでも気をとりなおす
バネにでもなればと思っている。」
(『ダテに年はとらず』まえがき)
前回から紹介してきた『ダテに年はとらず』は
「ダテに年はとらず」と「21世紀を睨んで」の
2部から構成されていて、前者は、財産対策についての部分など、
数章を除いて、この本のために書き下ろしたもので、
後半の「21世紀を睨んで」は昭和56年3月から
57年5月まで産経新聞に「邱永漢の月曜直言」
と題して掲載されたものです。
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