第173回
『香港の挑戦』は21世紀の日本のあるべき姿にもふれています
『香港の挑戦』には前回解説されている「香港の挑戦」のほかに、
「実録―海外投資」と「経済一等国日本」の
二つの作品が収録されていています。
今回は「あとがき」のうち、
この二つの作品について解説している部分の文章を掲載します。
「日本株の国際化も含めて日本経済の土俵が
全世界に拡がるようになれば、
日本の資金と工業技術が外国へ出ていって、
外国で工業生産をやったり、販売活動をしたりするのは
やがて日常茶飯事になってくる。
『海外投資』は日本経済にとって
避けられないコースの一つなのである。
たまたま私は足掛け10年、
台湾で実際に海外投資に従事してきたので、
その難しさをつぶさに味わってきている。
近来海外投資についての本はたくさん出版されているが、
通りいっぺんの叙述が多く、私が見ると
ツボをはずれたもどかしさを感ずる。
そこで自分の体験をもとに、
いわばホンネの海外投資論を書く気をおこした。
『海外投資』120枚は、中央公論社の『経営問題』春季号に
『実録―海外投資』と題して発表させていただいた。
続けて『経済一等国日本』100枚を書いた。
これは『プレジデント』に『驚くべき日本を解明する』
と題して載せてもらった。
この本の執筆に関していえば、
日本経済が直面している実際問題から入ったのだが、
問題を考えているうちに、これから21世紀になるまで
20年間に日本はどういう経過を辿るだろうか
ということに思いを馳せた。
すると過去をふりかえらざるをえなくなり、
日本が敗戦直後に『戦争放棄』を宣言し、
『非武装』を選択したことがどういう意味をもっているかを
改めて考えさせられることになった。
私は戦争のない社会も、自衛力のない国家も
非現実的なものと考えているが、
日本はそういう批判に目もくれず、
経済戦争で中央突破をやるような『桶狭間的』作戦を展開し、
遂に『軍事力を背景としない一等国』という過去の常識では
考えられない新しい国家像をつくりあげることに成功した。
これはひょっとしたら、21世紀の国家像のモデルケースになる
性質のものかも知れないのである。
この意味で、日本がアメリカの強い要請によるとはいえ、
防衛に力を入れ、はじめは一桁台の軍事費増のつもりが、
だんだんエスカレートして再び19世紀的な軍事力を背景とした
一等国へ逆戻りするのは明らかに誤った選択だった
と考えざるを得なくなった。
他の国に攻め込むのはますます金のかかることになりつつあり、
反対に、守るのにますます金のかからなくなった時代が
すぐにそこまで来ているのである。
そういう時代に、日本人のやるべきことは
防衛費を増やすことでなくて、
経済戦争でトップの座を守ることであろう。
以上のようなわけで、私としては久しぶりに、
ハウツー物でないやや硬派の書物ができあがった。」
(『香港の挑戦』まえがき)
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