第142回
財産対策の部分だけ入れ替えた『新お金の値打ち』
邱さんは日本企業が多国籍化するであろうことを見越して、
台湾で『邱永漢工業区』という工業団地の建設にとりかかり、
次々と日本の会社との合弁会社を現地につくってきましたが、
少しやりすぎて年末に胃潰瘍を起こして入院してしまいました。
しかし50歳の邱さんの身体はすぐに回復してきました。
「生まれてからこの方、病院で正月を迎えたのははじめてだが、
貧乏性にできていると見えて、身体が回復してくると、
ただじっと寝ていることがどうしてもできない。
かねて徳間書店から頼まれていた
約束事を果たすべく筆をとった」
筆をとったのは徳間書店から昭和45年に出版し、10万部売れた
『お金の値打ち』のうち財産対策の部分を
リニューアルすることです。
『お金の値打ち』はインフレが一時的な現象でなく、
必然的なものと見て、その対策を提言したもので、
その後インフレは収まることなく、
昭和47年、48年と連続して卸売物価指数も
年20%をこえる異常現象が続きました。
だから、邱さんにいわせれば、自分の提言を取り入れていれば
インフレ風など少しも怖がることなく過ごせた筈とのことですが、
それから先ということになると、
それまでの延長で進むとは思えない
という見方をするようになります。
「石油危機に端を発して、実はずっと前から
やがていつかやってくるであろうと考えていた
日本経済の転換期がやってきた。
インフレが続いても、高度成長に変化がない限り
『土地』は最も有力な投資対象であり、
『借金』は財産をふやす効果的な手段であった。
今後とも、土地を含めた不動産が
依然としてインフレに強い財産の一形態であることに
変わりがないと思うが、もし国民総生産の成長率が
アメリカやヨーロッパ並みに3%とか4%とかに落ちたら、
私たちの財産対策も大きく変わらざるをえないだろう。
そうしたことを考慮し
『不動産とか株とかといった財産手段について、
最近考えていることをまとめて入れかえた』のである。」
『お金の値打ち』には財産対策のほか
『これからのマイホームづくり』や
『人生後半のための経済設計』が掲載されていますが
これらについては「社会環境に大きな変化がないから、
このまま何年かもつであろう」とそのまま掲載を続けることとし、
こうして『新お金の値打ち』が出版されました。
この本がのちにQブックスの1冊として
「人生後半のための経済設計」
と名を改めて再々々登場することになります。
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