第88回
株で儲けたお金でビルを建てる
成長株に狙いを定めたところがよかったんですね、
1年前は株のことをなにも知らなかった邱さんは
たちまち「株の神様」と呼ばれるようになりました。
「私について素直に成長株のあとを追いかけた人たちは、
株価が何倍にもなったので私のことを『株の神様』といい、
『神様、仏様、邱永漢様』と経済雑誌にひやかされた。
また週刊朝日は『兜町に邱銘柄あり、この人が推奨すると、
株価があがる』と書いたので、
私はたちまちその道の権威ということになった。
私はたった200万円を元手にして成長株を買っていたが、
1年もたってみると、持っている株の時価が
5000万円にもなっていた。
今の5000万円ではなく、昭和30年代の5000万円であった。
200万円の借金を返済しても、
あとにビル一軒くらいは建てられる資金が残った。」
(『金儲け・発想の原点』)
これだけ儲けさせてくれる株を邱さんは追い続けようとしますが、
奥さんが邱さんの熱を冷やす側にまわり、
儲けたお金で「不動産」、
とくに「定期的に収入の入る不動産」を持つことを
強く主張するようになります。
「うちの女房は 、私が株の話を雑誌に書きはじめた頃、
それまで小説を書くことに
夢中になっていた私ばかり見ていたので、
私が方向転換をして、こともあろうに株の話をはじめても、
亭主の株談義など一切信用しようとしなかった。
ところが世間のほうが信用して、新聞記者は来るし、
読者から手紙が舞い込んでくる。
『この調子ならあるいは本物かもしれないわね』と
漸く気がつき、
『では少々、小手調べに株でも買ってみようかしら』と
私の推奨する株を買ったところ、
2年間で元手が6倍になった。
もともと小さい元手だから6倍になっても大したことはないが、
主婦の小遣いとしては目のさめるような金額である。
そのことを、香港の親のところへ自慢半分に報告に及んだらしい。
女房のオヤジは香港の商人で、株なども手がけたことがあるから、
『あまり調子に乗って深入りしないように、
株はいいときはいいが、
悪くなると手がつけられないくらい悪くなる。
だから早々に後退しなさい』
と戒めの手紙が来たらしい。
女房は孝行者で親の言うことはよくきく方だから、
毎日のように私に
『株を売って不動産を買いましょう』とネジを巻くようになった。
もともと私は不動産が嫌いというわけではなかった。
(略)女房の懇望していることを無下に退けても
家庭争議のもとになるし、
もともと不動産をかうことに反対なわけでもない。
(略)そう思ったので、
女房の意見に従ってビルを建てることにした。」(同上)
なんでも邱さんが建てたビルは
その頃の日興證券のコマーシャルにちなんで
マネービルと名づけたそうですが
渋谷の東急本社の隣の路地に面したところだったとのことです。
この渋谷の東急本社は数年前撤去され、
その跡地に最近「セルリアンタワー東急ホテル」ができていますね。
邱さんが建てたビルは地下1階、地上4階の
小さなビルだったそうですが、
今このホテルが建っているあたりだったのですかね。
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