Qさんの本を読むのが何よりスキ
という戸田敦也さんがQライブラリーのガイド役をつとめます

第28回
香港で小説「敗戦妻」と「客死」を書きあげました。

邱さんは「竜福物語」(のち「華僑」に改題)を書いたあと、
香港で引き続いて小説を書きだしました。
そのひとつが「敗戦妻」です。
この「敗戦妻」は、終戦後の台湾で、一夜のサービスを提供することで
生計を立てるほかなくなった日本人女性と
彼女の家を訪ねた台湾人男性との人間交流を描く短編小説です。
この作品は昭和31年に発行されることになった『密入国者の手記』と
昭和47年に徳間書店から発行された邱永漢自選集T
『密入国者の手記・濁水渓』に収録されています。

また邱さんは香港で「客死」という小説も書きました。
台湾が日本統治下にあった時から日本の統治に抵抗した
台湾の元老として林献堂という人がいました。
「客死」はこの林氏をモデルとし、林氏が国民政府の政治に怒りを覚え、
東京に移住したまま帰らなかった模様を伝える作品です。
この小説には、林氏に擬した老人「謝万伝」が登場します。
また「蔡志民」という人物が登場します。
「蔡志民」は、邱さんに台湾独立の密使役を頼んだ
荘要伝さんがモデルです。

荘要伝さんは邱さんと共に香港に逃避行し、
香港で邱さんと同じところに居候しました。
その後、香港にいてもやることはないといって
日本に密航し、日本で原因がわらないままに死んでいます。
この荘要伝さんに擬した「蔡志民」の死体を前にして、
老人「謝万伝」が語ります。
「蔡君、今度生まれてくるなら、決して植民地に生まれてくるな。
 どんな貧乏で小っぽけな国であってもいいから、
 自分たちの政府をもった国に生まれてくることだ。
 そうすれば君は政治のことなど心配しないでもいい。
 政治家にまかせておいて、放蕩三昧でもして暮らしてくれ。
 そういう姿の君が見たい」と。
この作品も先ほどの2冊の本に収録されていますが、
前回紹介した「邱永漢短編小説傑作選・見えない国境線」
(平成6年)にも収録されています。


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2002年9月24日(火)

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