第27回
オール読み物新人杯に応募するため華僑の話、「竜福物語」
(のち「華僑」に改題)を書きました
「密入国者の手記」は「大衆文芸」昭和29年1月号に
発表されました。
王育徳さんはこの作品が掲載された雑誌をもって
裁判に望み、結果として王さん一家は
日本での居住が認められることになりました。
王育徳さんはその後日本に永住し、
明治大学の文学部の教授として、
また台湾独立運動家として活躍しました。
さて、雑誌への掲載の道を導いてくれた西川さんは、
邱さんが市中の貧弱な原稿を使っているのを知り、
「満寿屋というところの原稿用紙を使ったら
不思議に賞などもらってプロになれる、
だからこの原稿を使って
『オール読物』新人杯に応募してはどうか」
と原稿をたくさん送り届けてくれました。
台湾に2年、香港に6年、この間に邱さんは
普通の日本人には想像もできないような
異常体験を積んでいます。
書こうとすれば材料にこと欠きません。
そこで香港、シンガポール、マレーシアを舞台に、
裸一貫から財をなし、再び没落する竜福という名の華僑の話、
「竜福物語」を書き、応募しました。
この「竜福物語」は約千篇の応募作の中から
最後の5篇の中に残りました。
約千篇もの応募作の中から
最後の5篇の中に残ったということは
邱さんに自信とプロになる野心を持たせました。
この作品はのちに直木賞を受賞した「香港」とともに
同じ単行本に収録して刊行されますが、
その際、檀一雄さんの勧めで「華僑」と改題されました。
いま、私たちはこの作品は平成6年1月、新潮社から出版された
「邱永漢短編小説傑作選・見えない国境線」
で読むことができます。
この本はすこし大きめの図書館だったら備えられていると思います。
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