焼肉屋をオープンするにあたり、
私はお客さまに心地よく、快適に過ごしていただくためのサービスには
とくにこだわっていました。
サービスに対する私のこだわりは、
以前、一時期働いたことのあるヒルトンというホテルでの経験が出発点でした。
そこにはサービスのプロが集まっていました。
お客さまに喜んでいただくためにあらゆることを考える。
ゲストが好む新聞の種類から、朝食に飲むドリンクの種類。
また、灰皿をテーブルのどこに置けばお客さまが一番使いやすいか、また美しく見えるか。
実際におどろいたのは、受付ロビーにある大きな大理石の灰皿を
どこに置くかということについて、先輩に教えられたときでした。
「金さんね、このロビーは合計52枚の大理石のパネルがあります。
だから、大理石13枚ごとにこの大きな灰皿をおくと、とても均一で綺麗にみえますから
もしずれていたら気をつけてください。
あと、受付デスクの上にあるゲストが使うボールペンは、
左右からみてちょうど45度の角度に調整すると
遠くから見てもとても美しく見えますから、気がついたときに直してくださいね。」
美しくみえるということについて、ここまで考え計算しているのか。
というかすかな感動を覚えました。
そして5スターホテルのサービスは、
こんな些細な例ではうかがい知れないほどよく考えられていました。
この経験から、私が次に身を置いた実家の焼肉屋のスローガンは
「さりげなく過剰なサービス」でした。
お客さまにはあくまで自然に、さりげなく、かつ期待を超える内容を提供する。
これがお客さまの感動を呼ぶと。
このような経験から、私は、サービス発展途上国の中国で
私が経験した水準のサービスを提供できたらすごい競争力になる。
というより、自分自身がここに来た意義のひとつがここにある。
中国でお客さまが感動するようなサービスが提供したい。
2週間のトレーニングを終えオープンを控えた前日、
期待に胸を膨らましすべての従業員のサービスレベルのチェックを
私自身がおこないました。
現場の状態を模倣したテーブルをセットし、本番さながらのテストでした。
お茶を注ぐタイミング、注文をとるスピード等の基本技術をチェックする傍ら、
「おしぼりが臭うのですけど。」
「牛肉はどこから来てるの。」
といった柔軟性を試すために突発的な質問を浴びせました。
結果、
「おしぼりがくさい?そんな馬鹿な、ありえません。」
「牛肉がどこから来てるかなんて知りません。店長に言ってはいけないといわれています。」
「ア〜。」
感動のサービスとは程遠い現実を目の当たりにして、
またまた頭を抱えてしまったのでした。
2週間もトレーニングをして、まさかこの程度とは・・・。
しかも、明日はオープンなのに。
すべての従業員のレベルを確認し、失望で肩を落として帰宅すると
すでに夜の11時半でした。
そして深夜12時ごろ、店長から一本の電話がありました。
「社長すみません。たった今従業員が8人同時に辞めました・・・。」
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