トップページ > 上海漫遊記 > バックナンバー

  隔週水曜日更新
20.心で動く人
ある日スタッフの一人が帰郷すると言いました。
理由は両親が離れて暮らしていることが心配で、
戻って来てほしいということでした。
彼女は仕事もできる優秀なスタッフで、
まさかの出来事に、できることなら留まってほしいと言いました。

私は唐突な発言を疑問に思い、
はじめは給与の問題なのかと思いましたが、
聞いてみると、最近は不景気からか
地方から上京した人たちが帰郷しているという話を聞きました。
しかしまさか自分のスタッフから
このようなケースになるとは思わず、動揺しました。

組織にとって必要なスタッフがいなくなることは、大きな痛手です。
しかも家族のように親しかった関係ならなおさらです。
私は彼女の存在がいかに大切かを話し、
彼女もそれを理解しているものの、
再三の話し合いにも関わらず帰郷しました。
私は残念な気持ちでしたが、
このようなこともあると思いつつ、
しかしやっぱり彼女のいないお店に大きな不安を憶えました。

しかし、それから二週間ほどして彼女は突然帰ってきました。
びっくりする私に、店舗のことが気になり、
また僕一人では行き先心配に思えたらしく、
家族には話し合いをして了承を得た上で帰って来たそうです。
そのときはとてもうれしくもあり、
心配されて情けなくもありました。

また主要スタッフの一人である別の女性の妊娠がわかり、
それももちろん唐突なことで、
しばらくすると産休のために来れなくなるとわかりました。
個人的にはめでたいことですが、
仕事として考えると大事なスタッフが一人いなくなるので
頭が痛くなりました。
一般に上海で妊婦も期限を設け仕事をします。
しかしそれは体を使わないデスクワークが主で、肉体労働は別です。
「今は人手が足りないのでしばらく手伝ってほしい」と言いました。
しかし彼女は家族が家にいてほしいとのことで
来れないと言いました。
彼女も仕事が出来るスタッフだったので、残念に思いましたが
こればかりは仕方ない事と思い、あきらめていました。
しかし契約期間を終えても
彼女は店舗に来て仕事を続けてくれました。
彼女も店舗と僕のことが心配だったのでしょう。
おなかに赤ちゃんがいるのに懸命に働いてくれたことは
本当にうれしくもあり、ありがたかったです。

中国では少しでもサラリーがいい場所があると、
信用のある人でも
簡単に移ることがあるという話をよく聞いていました。
つまりお金で動く人が多い世の中で、
この二人は心で動いてくれました。
心で動く人もいるということを
この体験によって得ることができました。
これからも心で動く人たちと一緒に仕事をしていきたいと思います。


2009年4月1日

<<前へ  次へ>>