第1538回
合弁相手という落とし穴

4つ目の落とし穴は、
合弁相手という落とし穴です。

当社には中国最大の国有運送会社・中国外運(シノトランス)の
北京子会社である北京外運と合弁で作った
北京外運華通包装運輸代理有限公司という引越子会社があります。

この会社は当社の方が北京外運より持ち株比率が大きいのですが、
総経理は北京外運から出ています。
当社はこの国有企業出身の総経理に、
業績向上のための対策や提案を何度も行ってきたのですが、
あれこれ理由を並べて、最終的には
「没弁法(めいばんふぁー、仕方ない)」の一言で
終わってきました。

当社は民間企業出身者を副総経理として送り込んだり、
生え抜きの若手を抜擢したりして、
企業体質の改善を図ったのですが、
総経理を始めとする国有企業出身の幹部たちの壁は厚く、
なかなか思ったように動いてはくれません。

中国の国有企業はそもそも、利益を出すためではなくて、
雇用の受け皿として存在していました。
最近では国有企業の中でも優秀な人材をどんどん抜擢して、
利益を出すことを目的とする
近代的な企業も増えていると聞きますが、
北京外運の出身者を見ている限りは、
「親方日の丸」ならぬ「親方五星紅旗」で、
何しろ「毎月給料をもらいながら、なるべく働かない」
という意識の人がまだまだ多いように思います。

私は以前、丸紅で働いていたときに、
中国の国有炭鉱会社を訪問したことがあります。
当時の私は夜遅くまで残業したり、休日出勤したりして、
死ぬほど忙しかったのですが、
この国有炭鉱会社には職場に卓球台が置いてあり、
社員の人たちが朝の10時から卓球に興じていました。
私はそのゆるゆるの勤務態度に、
とても驚いたことを思い出します。

中国の国有企業とは、地域の雇用を生み出して、
失業者を無くすことによって
国内情勢を安定させる見返りとして、
損失を出しても国家から補填してもらえるため、
社員が朝から卓球をしていても誰も困らない、
という存在だったのです。

しかし、外運華通のように
他の民間企業と競争しなければならない立場の会社で、
「親方五星紅旗」という意識のままでいられたら、
そんな会社はすぐにつぶれてしまいます。
とは言え、一度身についたゆるゆるの国有企業根性は
そんなに簡単に変わるわけもなく、
彼らは今日ものんびりと楽しく仕事を続けるのです。

のんびりと楽しく仕事をすることが悪いことだとは言いません。
しかし、競争がつきものの資本主義社会の中で、
生き残っていこうと考えれば、
社会主義時代の国有企業根性は
捨ててもらわなければなりません。

しかし、それが難しいとなれば、
私たちは中国でビジネスをするに当たって、
「親方五星紅旗」の国有企業根性を持った人たちとは、
なるべく一緒に仕事をしないようにするしか他に、
手はないのではないかと思います。


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2012年8月13日(月)

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