第1537回
政府の役人という落とし穴

中国の役人は大きな権力を持っています。
今日は3つ目の落とし穴、
政府の役人についてお話します。

本来、役人の仕事は法律に従って、
その執行を行うことだけなのですが、
中国の法律の中には書き方が曖昧だったり、
やたらと厳しかったりするものもあり、
そのままでは社会が回っていかないため、
現場の役人にケースバイケースで条文を
現実に合わせて「解釈」する権利が与えられています。

この「解釈」する権利が中国の役人に大きな権力を与え、
一方で大きな権力と比べると給料が非常に安いこともあり、
汚職により自らの権力を現金化しようとする役人が
後を絶たないのです。

それはある春の日の昼下がりでした。

その日は電話もあまり鳴らず、
当社の社員はみなそれぞれの仕事を黙々とこなしていました。
そこに突然、その静寂を切り裂くように、
5人の屈強な男たちが当社の事務所にドカドカと入り込んできて、
まっすぐ会議室に入ってどっかとイスに腰を下ろしたかと思うと、
リーダーとおぼしきブルドッグ顔の男が一言
「責任者、出せや!」と言ったのです。

この男たちは全員私服でしたので、
一瞬、あちらの業界の人たちかとも思ったのですが、
よくよく聞いてみると、
会社が定款通りに営業をしているかを管理する
工商行政管理局の役人だったのです。

中国の役人の対応は私では歯が立ちませんので、
パートナーの劉さんが応対しました。
役人たちは非常に尊大な態度で、様々な資料を要求、
説明は3時間にわたったのですが、
帰るときにはあれだけ仏頂面で尊大だった役人たちが、
ニコニコ顔で、さらには
「何か困ったことがあったら、何でも相談してね」
と言い残して出て行きました。

あの3時間の間に何があったのかはよくわかりませんが、
説明の途中で劉さんが総務担当者に
何かを買いに行かせたのを見ましたので、
何らかの金品の授受があったのではないかと思われます。

私は中国の役人の汚職は中国を崩壊に導く
最大のリスク要因だと思っていますので、
何としてでも根絶しなければいけないと考えています。
しかし一方で、中国で中小企業を経営している立場からすれば、
そんな理想論を振りかざしても、役人の権力をもってすれば、
こんな小さな会社を倒産に追い込むのは簡単なことですので、
現実は現実として受け止めなければなりません。

役人は絶対に敵に回さない。

はなはだ不本意ではありますが、
これは中国で会社を経営する上で
肝に銘じておかなければいけないことの
一つなのではないかと思います。


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2012年8月10日(金)

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