第1531回
諜報機関が経営する引越屋
当社の引越子会社・外運華通は、
北京市で第3位の海外引越会社ですが、
第1位は海龍(はいろん)という会社です。
この海龍、上部機関は
中華人民共和国国家安全部なのだそうです。
国家安全部。
これは国務院直属の省庁で、
スパイを使って外国の情報を収集したり、
逆に外国のスパイから国家機密を守ったり、
という仕事をしている諜報機関です。
アメリカではCIA、イギリスではMI6に相当します。
中国の人たちが「ぐおじゃーあんちゅえんぶー」と
この機関の名前を発音するときには、
無意識に声をひそめる。
そんな存在です。
なんで国家の諜報機関が引越屋などやっているのか?
私もいろいろと考えてみたのですが、
考えられる理由は3つ。
1つ目はおカネを儲けて、
スパイ活動を行う資金を稼がなければならなかったから。
国家安全部の活動資金は当然、
国家予算から支出されるのですが、
十数年前から中国では
「国家機関も自分の予算は自分で稼げ」
という方針が中央から下され、
今では人民解放軍系の不動産会社とか、
民政部系の銀行など、
国家機関傘下の会社がたくさんできました。
海龍もその流れの一環として設立されたのかもしれません。
2つ目は歳を取ったり、
ヘマをしたりしたスパイの受け皿が必要だったから。
映画・007シリーズでは、
MI6のスパイ・ジェームズ・ボンドが任務の遂行に失敗し、
上司であるMに解雇されるシーンが何度も出てきますが、
解雇ではかわいそうなので、
傘下の引越会社で雇ってあげる、ということなのかもしれません。
引越荷物のダンボール箱をトラックまで運ぶ
元スパイ・ジェームズ・ボンド。
見たいような見たくないような...。
そして3つ目は、各国大使館の人事異動を把握したかったから。
各国の大使館が集まる北京では、
大使館員の海外引越需要が大きいです。
公に発表される大使館員の人事異動以外の、
何かの事情で発表できない
武官や諜報機関出身者の異動情報も、
引越屋をやっていれば手に入る、と考えたのかもしれません。
日本の中国大使館にいた李春光一等書記官のスパイ疑惑や、
中国国家安全部副部長助理の38歳の男性が、
アメリカに情報を流した容疑で拘束された事件などで、
最近、にわかに注目を浴びている中国のスパイ。
日本で普通に生活していれば、
スパイの存在を意識する機会はほとんどないと思いますが、
よいことか悪いことかは別にしてここ北京で生活していると、
商売敵が諜報機関傘下の会社だったりして、
意外とスパイの存在を身近に感じることができるのです。
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