第1512回
全聚徳の苦悩
北京を代表する料理と言えばなんでしょう?
多くの方は「北京ダック」と答えるのではないかと思います。
なにしろ料理の名前に「北京」が入っているわけですから。
そして、北京ダックのレストランと言えば、
最も有名なのは「全聚徳(ちゅえんじゅぃーどぁー)」です。
この全聚徳、創業は清朝末期の1864年という
老字号(らおずはお、老舗)です。
同社では、生後100日未満で体重2.5kg以上の鴨を、
丁寧に食肉処理。
窯の中の鉤に掛けて焼かれるため
いらない油が下に落ち、
油がのってジューシーでありながらも、
しつこくない味を出すことができるのだそうです。
全聚徳は北京のみならず、
上海、ウルムチ、重慶、青島、ハルピン、鄭州など、
中国各地に支店を出しています。
日本にも東京に銀座店と新宿店の2店を構えています。
全聚徳集団の2011年の売上高は18億元(234億円)、
純利益は1億2900万元(16億8,000万円)と
中国の飲食業界ではトップクラスです。
しかし、同社の発表によれば、
北京、上海、ウルムチの各店は黒字ですが、
重慶、青島、ハルピン、鄭州の各店は
数十万元(数百万円)から数百万元(数千万円)の
赤字なのだそうです。
それでいてグループ全体で
年間1億2,900万元の純利益をたたき出す、ということは、
北京、上海、ウルムチの黒字3店が、
他都市店舗の赤字を補って余りある、
大儲けをしているということになります。
赤字店舗も素材を北京から空輸したり、
伝統的な料理法を堅持したりと、
北京の全聚徳本店と変わらない味を出すために
努力をしているようですが、
逆にそれが仇となって客足が遠のいている、
という事実もあるようです。
飲食業界の専門家は
「各地の住民の好みに合わせた料理を出すなど、
現地化の努力が必要だ」と語っています。
本来の味か、現地化か。
これは中国に進出する日本の飲食業界の企業にとっても
永遠の課題です。
料理の味を現地化すれば、
地元の人たちには受け入れられるかもしれませんが、
逆に地元レストランとの差別化ができなくなり、
果てしない価格競争のスパイラルに
陥ってしまう可能性もあります。
本来の味と現地化の間で揺れる全聚徳の苦悩は、
そのまま中国に進出する飲食業界の日本企業にも
当てはまるのです。
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