第1455回
スクールバス事故に見る新しい民主主義の形

昨年11月、中国北西部の甘粛省で
地元政府が運営する幼稚園の送迎バスが大型トラックと激突、
園児19人を含む21人が死亡する、という事故が起きました。

これだけならば「不運な交通事故」として
片付けられてしまいそうなのですが、
中国の網民(わんみん、ネット市民)たちが問題視したのは、
事故に遭った送迎バスが定員9人のワゴン車で、
その中に園児ら64人がすし詰め状態で乗せられていた、
という事実でした。

微博(うぇいぼー、マイクロブログ)では
「高くそびえる地方政府の庁舎や、
虚勢を張るためだけの高級公用車を減らし、
安全なスクールバスに予算を回すべきだ」とか、
「中国は空母や宇宙船を買うカネはあっても、
スクールバスを買うカネはないのか」などといった
中国政府の予算の使い方に対する批判が相次ぎました。

更に、事故からわずか9日後に
中国政府が東欧のマケドニア共和国に対して
大型スクールバス23台を寄贈したことが発覚。
中国政府は「2008年の四川大地震の際に
援助をしてくれたマケドニアに対する恩返しで、
以前から決まっていたものだ」と説明しましたが、
網民たちは「外国の子供たちは
中国政府が贈った安全なスクールバスに乗って笑い、
中国の子供たちは危険なスクールバスに
すし詰めにされて泣いている」
と中国政府に対する批判を強めました。

こうした網民たちの批判を受けて、
先日、中国政府で法律の草案を作る仕事をしている
国務院法制弁公室は
「スクールバス安全条例草案」をまとめ、
一般意見の公募を始めました。

草案は「スクールバスの速度制限を時速60キロ以下とする」、
「スクールバスの購入費用は中央と地方が分担する」
などの内容が盛り込まれていますが、
国民の意見を聞きながら修正を加えていくことになりそうです。
一般意見の公募には初日だけで400件もの意見が寄せられ、
また、微博に設けられた
「私のスクールバスに対する意見コーナー」には
既に21万件もの意見が集まっているのだそうです。

このスクールバスの件に限らず、
中国政府の税金の使い方は、網民の人たちが言うとおり
まだまだ無茶苦茶なところがありますが、
一方で最近の中国政府が良いと思うのは、
新しい政策を決める際に必ずインターネットを使って
国民の意見を募るところです。

新しい政策をインターネットで公開して、
これに対する国民の意見や提案を募り、
それらを参考にして政策に修正を加えていく。

中国は独裁国家ではありますが、
このシステムをうまく使えば、
数年に一度しか選挙がない民主主義国家よりも迅速に
国民の民意を国政に反映させることができる、
新しい民主主義の形を作ることができるかもしれません。





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2012年1月30日(月)

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