第1444回
80后の日雇い労働者
私が愛読している経済誌・日経ビジネスには、
毎号、中国の経済雑誌の翻訳記事が掲載されているのですが、
先日見た中国誌・週刊新世紀の翻訳記事
「定職を忌避する出稼ぎの若者」には
少なからぬショックを受けました。
記事によれば、現在中国では定職に就こうと思えば、
月給もそこそこ高く、社会保険も充実した仕事が
いくらでもあるのですが、
80后(ぱーりんほう、1980年以降生まれ)の
一人っ子世代の多くは、
単純作業や上司に命令されることを嫌がり、
あえて不安定な日雇い労働を選ぶのだそうです。
彼らは朝、ブルーカラーの人材派遣業者が集まる
北京市の南の郊外・馬駒橋(まーじゅぃーちゃお)に集まり、
そこでその日の仕事を決めると、
業者に身分証明書を預けて業者か雇い主が手配した
ワゴン車で仕事場に向かいます。
そして彼らは、アパレル工場での検品や包装、
タオル工場でのタオルたたみ、
時にはこん棒を持って住民を追い出す
強制立ち退きの仕事などを一日中すると、
またワゴン車に乗せられて馬駒橋に戻り、
身分証明書を返してもらうと同時に、
その日の日当60-70元(720-840円)をもらうのだそうです。
彼らはおカネが貯まったらしばらくは遊んで暮らし、
おカネが底を突いたらまた馬駒橋に出かけます。
定職に就いていてはできない、
そんな自由なライフスタイルを求めて
彼らはあえて日雇い労働という選択肢を選ぶのだそうです。
私はこの話を読んで、
大学に通っているときに見た光景を思い出しました。
午前10時から始まる2限目に合わせて高田馬場の駅に降り立つと、
駅前の酒屋の前の歩道で、毎日、酒盛りが催されているのです。
この人たちは朝、日雇い労働者の集合場所となっている
西戸山公園に行ったものの、その日の職にありつけず、
高田馬場の駅前まで歩いてきて、
憂さ晴らしとひまつぶしのために、
朝から酒盛りをしているのでした。
しかし、中国の80后の日雇い労働者には、
彼らのような悲壮感は感じられません。
正社員になりたいのになれない、
今の日本のフリーターとも違います。
彼らは、正社員になろうと思えばいつでもなれるのに、
あえて自由な日雇い労働者という選択肢を選んでいるのです。
自由を愛する彼らの気持ちはわからないでもないですが、
とても将来のことを真剣に考えているとは思えません。
今の中国ではブルーカラーの仕事はいくらでもありますので、
気楽な日雇い生活も良いでしょうが、
一旦景気が悪くなれば、
最初に求人がなくなるのは日雇い労働者です。
また、日雇い労働者には一般的に社会保険はかけられませんので、
雇用主にとっては都合の良い労働力ですが、
日雇いの彼らが病気になったり、歳を取ったりしたときには、
すぐに生活に困るようになってしまいます。
高度経済成長のあだ花、80后の日雇い労働者。
ワークスタイルを選ぶのは個人の自由ではありますが、
将来的な社会の安定を考えた場合、
中国政府は今のうちから彼らの首に縄を付けてでも
定職に就かせた方が良いのかもしれません。
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