第1411回
結果よければ全てよしの商社通訳

私はときどき仕事で、
日本語と中国語の間の通訳をすることがあります。

私は中国語を話せなかったときには、
「中国語を話せるようになったらすぐに通訳もできるようになる」
と思っていたのですが、話せるようになってみると、
自分で話すのと通訳をするのとでは、
全く違うレベルの中国語能力が必要とされることがわかりました。
通訳をする方がずっと難しいのです。

私が今でも恐怖を感じるのは、
中国語を聞き取って日本語に訳す中日通訳です。
中国の人たちは自分の豊富な語彙の中から、
自分の好きな単語を使って話してきますので、
知らない単語をたくさん使われると
何を言っているのかさえ分からなくなる場合があります。

1つの文で知らない単語が1つであれば、
前後の関係から類推して
何とか意味を推測することもできますが、
知らない単語が3つぐらいあると、もうお手上げです。

また、日本語を中国語に通訳する日中通訳でも、
日本語で話される単語が、
普段自分が使わないような単語だと、
自分の知っている単語に置き換えて
意思を相手に伝えなければなりません。
自分の言葉で自分がよく使う単語を使って話しているときとは、
明らかに緊張度が違います。

しかし、私は最近、通訳をするときに、
あまり一字一句の正確さにこだわらないようになってきました。

私は丸紅で働いていたときに、上司から
「一字一句正確に通訳するのならば、
外部から専門の通訳の人を雇ってくればいい。
商社マンが間に入って通訳をするのは、
あくまでも双方をうまくリードして、
双方がハッピーになるような結果を生み出すためだ。
それが商社通訳だ」と教育されました。

私は中国に来たばかりの頃、
私の部下の中国人スタッフが
私と中国企業の総経理の間の通訳をしているときに、
総経理が3分ぐらい中国語を話しっぱなしだったのに、
通訳された日本語が10秒ほどだったのに腹を立て、
「きちんと正確に通訳しなさい」と叱ったことがあります。
しかし、あれも今から考えてみれば、
多分、結果よければ全てよしの
商社通訳をしてくれていたんですね。
彼には悪いことをしました。

通訳の目的が、一字一句正確に訳すことから、
良い結果を導くことに変わってからは、
私も随分気分が楽になりました。

今、中国語を勉強していて、
今後、中国企業と日本企業の間の
通訳の仕事をする予定の方には、
ぜひ、良い結果を導くことを最終目的とする
商社通訳の習得を目指して頂きたいと思います。





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2011年10月21日(金)

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