第1239回
マニュアル至上主義の功罪

先日、うな丼が食べたくなって、
北京市内のある日本料理屋に行きました。
最初からうな丼を食べるつもりでしたので、
メニューも見ずにうな丼を注文しました。

「すいません。うな丼ください」
「うな丼はありません」

そこでメニューを見ると、確かにうな丼はないのですが、
うなぎの蒲焼、というメニューはありました。

「メニューにはうなぎの蒲焼はありますよね」
「うなぎの蒲焼はあります」
「じゃあ、うな丼できますよね」
「うな丼はありません」
「えーと、じゃあ白いご飯はありますか」
「白いご飯はあります」
「じゃあ、うなぎの蒲焼と白いご飯を頂けますか」
「わかりました。うなぎの蒲焼と白いご飯ですね」

そんな会話の末に別々に出てきた
うなぎの蒲焼と白いご飯を組み合わせて、
何とかうな丼にありつくことができたのですが、
この日本料理屋に限らず、
北京ではレストランでメニューにないものを
オーダーしようとすると一苦労です。

日本ならばうな丼がメニューになくても、
お店の人が気を利かせて、
「うな丼はメニューにないんですが、
うなぎの蒲焼1,000円を白いご飯200円の上に乗せて、
合計1,200円になりますがよろしいですか?」
ぐらいのことは訊いてくれそうなのですが、
中国では「メニューにないものはない!」の一点張りです。

以前に比べるとずいぶん良くなってきた中国のサービス業。
これは各社ともマニュアルを作成し、
マニュアルに沿って服務員(ふーうーゆぇん)を
教育してきた努力の賜物であると思います。
しかし、マニュアル至上主義で教育された服務員には
「お客さんに気持ちよくご飯を食べてもらいたい」
という心がありませんので、
マニュアルからちょっとでもはずれた事態が発生すると、
とたんに応用が利かなくなってしまうのです。

そういった意味では、
日本に旅行に行った中国の人たちが
日本の旅行で最も印象に残ったものに、
「温泉」や「富士山」ではなく、
「お店の人の心遣い」や「店員の対応の細やかさ」を
挙げるのはよくわかります。

「お客さんに喜んでもらいたい」。
この目的達成のためには、
時にはマニュアルから逸脱することも厭わない
日本人の「おもてなしの心」は、
日本が世界に誇るキラーコンテンツになるのではないか。

うなぎの蒲焼を自分で白いご飯に乗せて作った
うな丼を食べながら、私はそんなことを思いました。


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2010年9月17日(金)

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